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コインランドリー(仮)
家の近く。コインランドリー。
売れないピン芸人のあなたは、良いネタを考案する事に苦心していた。
(スクリーン真ん中)
あなた、大きくため息を吐く。
「はー....どないしよ」
買い物などに向かう気力は無いが、それなりに待ち時間がある洗濯と乾燥が終わるまでの間。なんとかネタを捻り出そうとするも、ちっともこれだ!と納得するようなものが浮かばない。スランプというやつだ。
しかも泥沼の。実を言うと最近新しいネタを1つも出せていない。おかげでコントはマンネリ化。元々少なかった観客も益々閑古鳥が鳴くようになってきた。
(スクリーン全面に、見やすく)
「どないしよ言うてもなあ....そない急に浮かんでくるもんでも無いし....はあー....」
しばし、間。
持ってきた新しいネタ帳も真っ白なまま。もういっそ、誰かに丸投げしてしまいたい。
そういえば。コインランドリーに誰かが一言書いてくれるようにノートを置くオーナーさんの話をTVで見たことがある。同じように、ネタ帳を
【当方売れない芸人です。絶賛スランプ中。ネタを何か思いついたらご自由にお書きください。
※気に入ったものは公演にて手を加えて披露させて頂く可能性があります】
とでも付箋を貼って置いておけば何か参考になるネタを書いてくれる人が現れたりしないだろうか。いっそ参考にならなくても自分のネタじゃないからスベってもダメージが少ないから何か書かれていたらそのまま経緯ごと喋ってしまおうか。
(スクリーン左から右に速度速く流す)
※ここは出来るだけ滑舌を意識し、早口に。
再び時間が経つ。
「とりあえず今は藁にもすがりたい気分や。オーナーさんには無許可で悪いけど、ここいらへんにノート置かせてもらおか。後で取りに来た時に捨てられてたらまた新しいネタ帳買ってスランプ脱出法考えよ。で、運よく残ってたら万々歳ってことにしよか。....よーし、頼むで」
暗転。
再びコインランドリー。
「さてさて....成果は如何程か?ってかそもそも残ってるんか?俺のネタ帳」
半ば不安、半ば楽しみにコインランドリーの一角にある休憩スペースへと足を運ぶ。
幸運なことに、ノートは撤去されていなかった。自然と胸の鼓動がうるさくなる。
手が汗ばむ。震える。しかしノートを手にしページを捲る手は止められない。
(遅めにスクリーン上から下)
「なになに....」
鼓動効果音の後、暗転。
間を空けずライトアップ。
「おっ、何人か書いてくれてる。有難いなあ。しかもこのネタええやん!漫才師狙えるレベルやでこれは。んで、これはー....俺的にはまあまあやなあ。好きな人は好きそうや。後の書き込みは、と。ん?」
【このノートの持ち主さんへ。
ネタじゃなくてごめんなさい。でも、どうしても書き込みたくなり思わずメッセージを書いています。私にも芸人をやっている息子がいます。最近はずっとネタを考えているのか、滅多に部屋から出てきません。そんな息子にどう声をかけようか、どう接しようか迷っていた所、ふと立ちよったこのコインランドリーであなたのノートを見つけました。勝手に息子と重ねて申し訳ないとは思いつつも息子と同じくスランプのようですのでこのメッセージを贈らせて下さい。
スランプでもいい。たまには休んだっていい。頑張るのはいいけれど、頑張りすぎないで。たまには息抜きして、好きなことをしてください。加えて、あなたの努力は時には日の目をみないかもしれない。無駄だった、と落胆することがあるかもしれない。でも何かしら必ず得るもの、返ってくるものはあります。だからどうか筆を一時的に置くことはあっても、折らないで下さい。芸人は、どうか止めないで。応援しています。今夜、息子にも同じことを言うつもりです】
(手紙を背景に。フォントを通常と変える。)
書き言葉から見える気遣い。
達筆な筆跡。息子の境遇。
(スクリーン、字体小さめに左から右へ)
「....オカン?」
そういえば最近全然会話を交わしていなかった母親。だというのに不思議と筆跡から母親だと解った。
暖かい。
(暖かい。のみ太字で スクリーン上から下へ)
「....もうちょい、頑張ってみよか」
暗転、しばし間をとった後に場面転換。
インタビューシーンへ。
ーーー○○さん!優勝、おめでとうございます!
「ありがとうございます!ホンマに嬉しいです!」
ーーー優勝した喜びを伝えたい人はいますか?
「あー....恥ずかしいですけど、オカンに。それとーーー」
完
「あーーー、一応完成したけど!なーんかしっくりこないなあ」
ぼふん。
いかにもな音が飛び込んだベッドから発せられる。
夜中。自室。わたしは絶賛悩み中であった。
今度の文化祭に向けて劇の台本を考えなければならないのだ。しかも〆切は明後日。
なんとか完成したものの、完璧に納得はしていない。
「かと言って、具体的にここが納得いかない!っていう所は無いんだよねぇ。びしっ!と直せたらいいんだけど。....とりあえずみんなに見せてみようかな。特に演出のとこ。意見聞かなきゃ。地の文をスクリーンに表示するってやっぱ劇ではよくないのかなー....いや、意外にウケるかも?うーん」
台本の中の【あなた】がスランプ中というのは、今の【わたし】の状態が無意識に反映されてしまったのかもしれないな。
などとぼんやり考えている間にも時間は過ぎて行く。あ、いかん。眠気がきた。これはまずいのでは?
「まだ、もうちょっと、起きとかなきゃ、手直しが......」
家の近く。コインランドリー。
売れないピン芸人のあなたは、良いネタを考案する事に苦心していた。
「はー....どないしよ」
(ーーー!?!?え、なに、これ。勝手に口が、身体が!ていうか此処、何!?何処!?ライトがまぶしっ、熱っ、えっ、舞台!?ていうかこれわたしが考えた劇のセリフじゃない!?スクリーンにも、地の文が....どうなってるの?)
買い物などに向かう気力は無いが、それなりに待ち時間がある洗濯と乾燥が終わるまでの間。なんとかネタを捻り出そうとするも、ちっともこれだ!と納得するようなものが浮かばない。スランプというやつだ。
しかも泥沼の。実を言うと最近新しいネタを1つも出せていない。おかげでコントはマンネリ化。元々少なかった観客も益々閑古鳥が鳴くようになってきた。
(ゆ、夢、なの....?それにしては妙ーにリアルだけど....めちゃくちゃ汗、かいてるし....)
「どないしよ言うてもなあ....そない急に浮かんでくるもんでも無いし....はあー....」
(観客席....皆の顔、見えないな....なんか不気味。現実なのか夢なのかわからなくて、曖昧で)
持ってきた新しいネタ帳も真っ白なまま。もういっそ、誰かに丸投げしてしまいたい。
そういえば。コインランドリーに誰かが一言書いてくれるようにノートを置くオーナーさんの話をTVで見たことがある。同じように、ネタ帳を
【当方売れない芸人です。絶賛スランプ中。ネタを何か思いついたらご自由にお書きください。
※気に入ったものは公演にて手を加えて披露させて頂く可能性があります】
とでも付箋を貼って置いておけば何か参考になるネタを書いてくれる人が現れたりしないだろうか。いっそ参考にならなくても自分のネタじゃないからスベってもダメージが少ないから何か書かれていたらそのまま経緯ごと喋ってしまおうか。
(....待って。もしこれが現実だったら。いや、夢でも。この物語が終わってしまったら私、どうなるの!?)
「とりあえず今は藁にもすがりたい気分や。オーナーさんには無許可で悪いけど、ここいらへんにノート置かせてもらおか。後で取りに来た時に捨てられてたらまた新しいネタ帳買ってスランプ脱出法考えよ。で、運よく残ってたら万々歳ってことにしよか。....よーし、頼むで」
(優勝インタビューまでで台本終わらせたから、【あなた】の物語はそこでおしまい、よね。おしまい、おしまい....まさか、死....!?現実はもちろん、夢で死んだらそのままって、聞いた、ような....そんな、嫌、やだ、いっっっ嫌ーーーー!!)
暗転。
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