27歳

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 俺は昔から独りぼっちだった。誰も俺の事なんて気にも留めてなかった。一人っ子だったし、父親は仕事が忙しくて世界中を飛び回っていた。母親も寂しさを紛らわせるかのように、よく着飾って出かけていた。  母親はよく俺に向かってこう言った。 「お父さんはね、私たちの為にお金を稼いでくれてるのよ」  今思えば、それも母親のただの言い訳だ。自分の元へ帰ってこない父親に対して、見て見ぬふりをして、己に言い聞かせていただけだったのだ。 「リキ、いい子でいなさいね」  俺はその言いつけ通りに勉強をし、運動をし、身だしなみを整え、母親の望むいい子でいた。そうすることを、母親が望んでいたから。そうしていれば、母親がこっちを向いて笑ってくれたから。  だけど、ある日、聴こえてしまった。 「リキがこんなにいい子なのになんで貴方はここに居てくれないの……ッ」  母親が、父親に縋り付いて泣いていた。その声の鋭さに、がらがら、と音を立てて何かが崩れ落ちた。息の仕方も忘れて、俺は思わずリビングのドアから離れた。キィ、とドアの軋んだ音が鳴って、そうしてすぐにひとつだけスリッパの音がついてきた。 「リキ」 「……お母さん」  母親の目は俺に固定されていた。だというのに、確かに彼女の瞳は、俺の身体を通過して何か違うものを見ていた。ゾクリ、と肌が粟立った。
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