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太陽のエキス
舗装された坂道を一台の自転車が滑るように進む。
それを操る少年の名はジュン。彼は柔らかくブレーキを掛けながら、駅前の本屋へと坂を下っていた。
坂の終わりは交差点。信号待ちのため止まる。
斜向かいの角は小さな公園。中のベンチに座っている人影がジュンの視界に入った。
うなだれた格好で顔は見えない。
頭髪はグレー。年配者なのだろう。
――なぜか、少しだけ、気になった。
だが、いい天気だし昼寝でもしているのだろう、と思いを処理する。
信号が青に変わり、ジュンはそのまま目的地に向かった。
辿り着いたのは駅前の大型書店。ジュンのお目当ては最近ハマっているマンガだった。今日はその発売日なのだ。
ジュンは、それを購入する前にゆっくりと店の中をうろつき、気になったタイトルを手に取っては数ページめくって元に戻す、という作業を楽しんだ。
少し喉が渇いたなと思ったころ、時間を確認するためにスマホを見ると、店に1時間もいたことがわかった。
窓から見える雲は、ほんのりオレンジがかっている。ジュンは、母親が帰宅するまでにやらなければならない家事があることを思い出す。
急いで目的のマンガと、文具コーナーから算数のノートを一冊手にして購入。それから帰路に就いた。
速度を上げて自転車を漕ぐジュン。
上り坂に入る交差点にまもなく差し掛かろうかというタイミングで、またしても公園のベンチの人物が視界に入った。
――行きに見た時と全く同じ格好。
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