ラム

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 その日、18時を過ぎたころ、芹香が仕事から帰ってきた。  靴からスリッパに履き替えた。と、そこへ、みゃ~みゃ~と鳴きながら、よちよちと黒い物体が廊下に出てきた。  芹香は驚いて尻もちをつく。 「なな、なんなのよ! これ!」  家の中は静まり返っている。 「ちょっと、ジュン!!」  腰を上げてリビングに入ると、ジュンとマキが並んで土下座している姿が目に飛び込んだ。 「えっ? な、何? ジュン……マキちゃんも……」目を白黒させている芹香。  そこへ、黒い物体が鳴きながら彼女にすり寄ってきた。思わず悲鳴をあげる。  ジュンが鼻を床にくっ付けたままの姿勢で言った。 「お母さん、一生のお願い! この子を飼うのを許してください!!」 「お願いします!! お願いします!!」マキも同じ姿勢で叫んでいる。 「……こ、これを……か、飼う?」  芹香はそっと、自分の足元を見直してみた。  黒い仔猫がちょこんと座ってこちらをじいっと見ている。  不意に、どこからか入ってきた一匹の蚊。  仔猫はそれに反応し、背伸びをしたり、飛び跳ねたり、捕らえ損ねて転がったり、床にコチンと頭をぶつけたりしだしたのだ。その仕草がなんとも可愛らしく、こっけいで、ついに芹香はプッと吹き出してしまった。  笑ってしまった自分の顔を心配そうにそおっと見上げた子どもたちの、なんとも言えない複雑な表情を見て更におかしくなり、芹香の笑いは止まらなくなった。  ジュンとマキも顔を見合わせてから一緒に笑うことにした。三人の笑い声はしばらくの間、家中に響いたのだった。  こんなことがあって、ラムはめでたく山城家の一員になった。  始めのうちは「ペットは臭いがキツいからね」と言っていた芹香。だが、ラムはすぐにトイレを覚えたし、餌は上品に食べる。飼い主が最低限のことさえしていれば、臭いは大して気にならないことがわかるのに、それほど時間はからなかった。  今では、その黒猫を溺愛している芹香である。
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