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――その愛猫が、かなりの重傷を負い、帰ってきたのだ。
芹香はラムの避妊手術をした《田中動物病院》に電話をしてみた。
何度もコール……
だが誰も電話口に出てこない。
もう診察の時間はとっくに過ぎてしまっているのだろう。
「あー、もうっ、どうしたらいいのよ!」少しパニックぎみに頭をかきむしる芹香。
その時ラムが、ゲホッゲロッと血を吐き出した!
「ああぁっ!!」
内臓が損傷しているのかもしれない。
ジュンの目が涙で滲んできた。
「ラ、ラム、死んじゃうの?」
芹香は何も言えず、口をきゅっと一文字に結んでいる。彼女の目にも涙が溜まっている。このまま家族が死んでいくのをただ見ていることしか出来ないのか?
「そ、そうだ!」
そう叫ぶと、ジュンは立ち上がり、ぐったりしたラムを母親に渡し、自分の部屋へ駆け上がっていった。
すぐに駆け下りてきたその手には小ビン。
その栓を開ける。
中からMannaを一粒取り出す。
そして、ラムの口を開けて奥へと押し込んだ。
たちまち、乾いた木々が熾っているような弾ける音!
それから、うっすらと甘い香り。
そして、ジュンと芹香は見た!
みるみるうちにラムの傷口がぼんやりと青く光りながら塞がっていくのを!
「な……何これ?……」
芹香が信じられないという表情でジュンを見据える。
ジュンは涙を拭きながら答える。
「へへ……ちょっとパニクっちゃったけど、これが、さっき話したキャンディの力なんだよ」
「あ、あの話……ホントだったんだ……」芹香は目を丸くするばかりである。
やがて、ラムは大きなあくびを一つして、芹香と目を合わせてからもぞもぞと力強く動く。
そして彼女の手から床へストンッと飛び降り、振り返っていつもの鳴き声を一つ。
餌のある場所へ、トトトと小走りに向かい、カリカリとドライフードを食べ始めたのだった。
「こ、こんなことって……」
「ぼくの話、これで信じてくれるよね?」
ジュンの言葉に、芹香は頷くのが精一杯だった。
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