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芹香に促されて山城家に上がり込んだマキは、廊下をトントンと進み、リビングを経由して食卓を覗き込んだ。
「おっはよ!! ジュンちゃん!」
椅子に腰掛け、テーブルでピザトーストにかぶりついているジュンは少し驚いて、でもすぐに表情を戻し言葉を返した。
「なんだ――マキちゃんか。おはよ」スローな咀嚼。
「『なんだ』はないでしょ? もう、爽やかじゃないなぁ~。髪の毛、跳ねてるし」腕を組んで、ふくれっ面を作って見せるマキ。「早く起きなさいよねぇ。どうせ夜更かししたんでしょ」
「違うよ。なかなか寝つけなかったんだよ。あんな――」
「ん、『あんな』?」
「――凄いもの見ちゃうとね」スローな咀嚼は続く。
「なになに? 『凄いもの』って!」
マキはジュンの横の椅子に座り、茶色がかった綺麗な瞳をクルリとまん丸にしてジュンの顔に近付けた。
ポニーテールにした栗色の髪からいい香りがする。
マキの祖母はアメリカに住むコーカソイド。その血を幾らか受け継いでいる彼女は、色白で目鼻立ちがハッキリの整った顔をしている、いわゆる美少女だ。
見慣れているはずのジュンなのだが、最近は、時折、彼女の美しさにドキッとすることがある。
「ちょちょっと、近い! 食べられないよ!」
「ああっ、照れてるなぁ~」ニッと白い歯を見せるマキ。
「ち、ちが……パンが食べられないって言ってんの!」ジュンは、自分の顔が赤くなっているのがわかった。
「はいはい」
マキが椅子を少しジュンから離す。
そのタイミングで芹香の声。
「マキちゃん、アイス食べるでしょう?」
「いただきます!!」即答。
芹香が陶器の皿に入れて運んできた手作りアイスを、マキはスプーンですくってスルンと一口。
「おいしぃ~、あ~しあわせぇ~……お母さんのアイスが一番おいしいです」
本当に美味しそうに食べている。彼女の大好物なのだ。
アイスなら何でもいいくせに、という言葉が出そうになるのをジュンは飲み込んだ。
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