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二人が教室に入ったのは始業を告げるチャイムと同時だった。
「セーフ!!」
「はあぁ~、ま、間に合ったぁ!!」
ジュンとマキはそれぞれの席に、どかっと腰を下ろす。
しばらくして教室に担任が入ってきた。即、日直の号令がかかり、クラス全員での朝の挨拶が響く。
担任が「はい、おはよう」と言うと、再び日直の号令。皆席に着く。いつもの朝の光景だ。ただ、担任の次の言葉はいつもと違っていた。
「山田さん、ちょっと来なさい」
マキのことだ。“山田真紀”が彼女の本名。
本人は、どこにでもあるありふれた名字が気に入らないらしく、よくジュンに、「“山田”と“山城”じゃあ、一字違いで全然イメージが違うと思わない? “山城真紀”なんて、ステキよねぇ?」などと、勝手な妄想を口にすることがある。
呼ばれてマキは教壇の方へ行き、担任は何やら彼女だけに聞こえるように話をしている。顔は真剣だ。
静まり返る教室。
皆、前方の二人に釘付けである。
担任の話を聴いて何度も頷いているマキの顔が、だんだんと硬直し青ざめていく。
話が終わると、マキは急いで席に戻り、つい先ほどランドセルから出して机の中に入れたばかりの教科書やノートをランドセルに戻し入れ、それを背負って教室を出て行こうとした。
ざわつく教室。
マキは、教室の引き戸をガラッと開けたところで振り返る。
ジュンの方を見て何か言いたそうにしたが、それを飲み込むようにして教室を出て行ったのだった。
当然、マキが出て行った後の教室は騒ぎ立つ。
皆、彼女がなぜ出て行ったのかが気になり、銘々でしゃべったり、わめいたりしている。
担任は両手を広げて、まあまあ落ち着きなさいと身振りを交えて繰り返す。
ようやくある程度静かになり、皆、マキがなぜ帰ったのかを担任が話してくれるのを期待した。ジュンも気になって仕方がない。
担任は右手で握りこぶしを作り、口元へ持っていって、コホンッと咳払い。そして口を開く。
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