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どのくらい時間が経っただろうか? ラムに釣られて眠ってしまっていたジュンだったが、固定電話の呼び出し音に起こされた。
受話器を取ったのは芹香。
ジュンが気付かないうちに仕事から帰り、夕飯の支度を始めようとしていたところのようだ。
「もしもし……あら、百代? どうしたの? え? ジュンが電話を?」
百代というのは、“山田百代”。マキの母親の名前だ。
ジュンの母親の芹香とは高校時代からの親友。お互いに結婚してからも、たまたま同じ町の近所に住むことになり、そういう訳でジュンとマキは幼い頃から毎日のように一緒に遊んで過ごしたのだった。
実際のところ、山田家が近所だったおかげで、芹香は夫との死別の悲しみをなんとか乗り越えることが出来た。
それに昼間は、赤ん坊のジュンを専業主婦の百代に託して、仕事を続けることも出来たのだった。
話を終えて受話器を置く母親の所作を見届けてから、ジュンは透かさず訊いた。
「おばさん、なんて言ってた?」
「タクちゃんが入院したって……」
「えっ?」
「最近、喘息の発作がひどいって、マキちゃんが言っていたけど、今朝学校に行く途中で、急に呼吸が出来なくなって、救急車で運ばれたらしいのよ」
しばしの沈黙の後、ジュンが重たそうに口を開いた。
「……ぼ、ぼくが……寝坊して一緒に行かなかったから……」
目を潤ませて自分を責めようとするジュンのほっぺを両手で優しく挟み、芹香は言う。
「何を言っているの? それは関係ないでしょう? そんなふうに思わないの。心配しなくていいから、ジュンは今、自分に出来ることを考えなさい。いいわね?」
ジュンは涙をぬぐって、コクンと頷いた。
「百代おばさんね、今、必要なものを取りに家に帰ってきたんだって。すぐに病院に戻るみたいだから、お母さんはちょっと今から簡単に食べられるもの作って病院に行ってみるわ」
そう言いながら芹香はキッチンに入り、エプロンをして調理を始めた。
「ぼくも……ぼくも手伝うよ」とジュン。
「そう」芹香は微笑んで見せる。「じゃあ、お願いするわ。えーと、ハムと胡瓜、スライスしてくれる?」
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