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大人の男性。頭髪はグレー……いや、近づくにつれ、それはチューリップハットの色だとわかった。数メートル手前で声をかけてみる。
「おじさん、大丈夫ですか?」
男は色あせたリュックを背負っていた。そして、隣りには年季の入った茶色のトランクケースが一つ。大きなものではない。持ち手のわきに取り付けられた金具には紐が付いていて、その人の肩にかかっていた。
呼吸はしているのだろうか?
「ちょっと、おじさん!」思わず耳元で声を張り上げる。
その男はピクッと動き、それからゆっくりと顔を上げた。
そしてジュンの方に振り向く。やや長めの無精髭が印象的。高齢者ではない。40歳前後といったところだろうか。
「ああ……やあ、どうも……少年」
生きていることがわかり、ジュンは胸をなでおろす。
「もうすぐ暗くなっちゃいますよ」
「ああ……そうだね。寝てしまっていたようだ」
「大丈夫? 具合が悪いんじゃないかと思っちゃったよ」
大人に向かって敬語ではない話し方になっている自分に、ジュンは少し驚いた。だがこの時、なぜかジュンはそれが相応しいように思えたのだった。
「気遣ってくれたんだね」ニッコリと微笑む温かな瞳。だが次の瞬間、真顔に戻る。「どうしたんだい? 怪我してるじゃないか」
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