太陽のエキス

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 男は言う。 「ある意味、そうなのかもしれないね。でも正しく使うとね、とても役に立つ物なんだよ」 「……『役に……立つ』?」 「そう。食べた人にとって、今、一番必要なところに効いてくれるんだ。キミは今し方体験したでしょう?」 「……あぁ」 「賢く使うんだよ。いいね?」 「……あ、あはい」 「うん、いい子だ」  男はジュンの頭を軽くぽんぽんと叩いた。それから静かに立ち上がる。 「では私は、今日はこれで帰るよ。また会おう、“山城潤”くん」 「あ、さ、さようなら」  と、言ってから、ジュンは首を傾げた。確か、まだ名前は言っていなかったはずだ。 「おじさん、ぼくのこと、前から知っていたの?」 「いいや、今日が初対面だよ」 「じゃあ、どうして、ぼくの名前を知っているの?」 「ほら、あれだよ。あそこに書いてある」  そう言って男が指差したのは、ジュンの自転車だった。  確かに、住所と名前を書いたシールが前輪の泥よけカバーに貼り付けてある。だが、ここからその文字を読むには、あまりにも遠過ぎる。 「あれが……見えた……の? ……えぇ?」  まさか! 男の顔を見上げるジュン。  男は片目を瞑って言った。 「Manna(マナ)を食べたからね」  ニッコリと微笑むと、彼は公園の芝生をゆっくりと歩いて去って行った。    それからしばらく、ジュンは茫然としてベンチに座ったまま動けなかった。  ようやく腰を上げたのは、空が夜の始まりを告げる頃だった。 「……不思議な……おじさんだったな」  ジュンは手にしている小瓶を見ながら、そう、呟いてみた。
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