17人が本棚に入れています
本棚に追加
男は言う。
「ある意味、そうなのかもしれないね。でも正しく使うとね、とても役に立つ物なんだよ」
「……『役に……立つ』?」
「そう。食べた人にとって、今、一番必要なところに効いてくれるんだ。キミは今し方体験したでしょう?」
「……あぁ」
「賢く使うんだよ。いいね?」
「……あ、あはい」
「うん、いい子だ」
男はジュンの頭を軽くぽんぽんと叩いた。それから静かに立ち上がる。
「では私は、今日はこれで帰るよ。また会おう、“山城潤”くん」
「あ、さ、さようなら」
と、言ってから、ジュンは首を傾げた。確か、まだ名前は言っていなかったはずだ。
「おじさん、ぼくのこと、前から知っていたの?」
「いいや、今日が初対面だよ」
「じゃあ、どうして、ぼくの名前を知っているの?」
「ほら、あれだよ。あそこに書いてある」
そう言って男が指差したのは、ジュンの自転車だった。
確かに、住所と名前を書いたシールが前輪の泥よけカバーに貼り付けてある。だが、ここからその文字を読むには、あまりにも遠過ぎる。
「あれが……見えた……の? ……えぇ?」
まさか! 男の顔を見上げるジュン。
男は片目を瞑って言った。
「Mannaを食べたからね」
ニッコリと微笑むと、彼は公園の芝生をゆっくりと歩いて去って行った。
それからしばらく、ジュンは茫然としてベンチに座ったまま動けなかった。
ようやく腰を上げたのは、空が夜の始まりを告げる頃だった。
「……不思議な……おじさんだったな」
ジュンは手にしている小瓶を見ながら、そう、呟いてみた。
最初のコメントを投稿しよう!