2・過去

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メジャーデビュー曲である『rost rose』は初登場オリコン1位を獲得した。これはインディーズ時代からのファンが支えてくれてたお陰だ。 ライヴハウスでの客席は満員でチケットの入手困難があることを知った私達はライヴの回数を増やし、自主制作のCDを作成するなど自分達ができることを行ってきた結果だと思う。 順調だった。 本当に恐ろしいくらい順調で時に恐怖で寝れない日もあるくらいだ。 世間で私はコンプレックスのない人間だと思われているがそんなことはない。自分のルックスはコンプレックスだらけ、歌だってもっと上手い人は世の中にたくさんいる。何に恐れているのかと言われれば沢山ありすぎるくらいだ。不安ばかりが募り、ただ怖くてしょうがなかった。 恐怖感から寝付けない夜にはいつもベランダで星か月を眺めながら過ごしていた。隣には魁が住んでいる。ベランダで煙草を吸う魁と瞳が合うと無言で手招きされ、魁の部屋に行くことが当たり前になっていた。 そして魁の部屋に行くと当然のように抱かれる。私達は付き合っている訳ではない。でもお互いにお互いの身体を求める。これは私達にとって自然なことだった。 魁との行為は私の心の中にある漠然とした不安を埋めることができた。普段は強気な魁も同じだったのかも知れない。重ね合う肌の温もりは精神安定剤のように落ち着かれてくれるものだった。 魁と週に何度も体を重ねることが当たり前になってから5年が経過しても私達の生活は変わらなかった。 ライヴや音楽番組の出演、雑誌のインタビュー、ラジオ収録など目まぐるしい生活を送りながらも夜は魁に抱かれ続けた。 それで良かった。変わらないことを望んでいたから。
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