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1・現在
「clown良いよね〜。最近よく聴いてるんだ。特にボーカルの魅Rey。名前の通り本人も歌声も魅力的だし色気半端ないし。女の私から見ても憧れるわ〜。」
「私は断然ベースの魁。男なのに中性的な顔立ちに弾いてるときの目線がとにかくカッコイイの。ミステリアスな雰囲気もあってさ。あれに惚れない人はいないって。」
「確かにね。私はギターのリアンもドラムの護も好きだよ。リアンは一見、弟キャラみたいに可愛いのにギターを持つと別人みたいにカッコイイし、護のドラム叩くときの迫力も捨てがたいな。それに護って名前だけあってお兄ちゃんキャラだしバックからメンバーを見守ってる感じがするー。」
女子高生達の会話を偶然聞いていた私は被っているキャップのつばを持ち、更に深く押し下げた。
渋谷のスクランブル交差点が一望できる駅前に立ち、大きく派手に宣伝されているclownのポスターやスクリーン画面に映し出される映像を見て自然と深く溜息をつく。
ここまで上り詰めてくるまでファンには知られることのないclownの歴史があった。良い思い出も思い出したくないようなこともある。
どこにも吐き出すことのできない思いを握り拳を作り、力いっぱい思いを込めて握りつぶした。
こんなにたくさんの人が目に触れる場所に立っていても私が゙clownの魅Rey゙本人であるとバレることはない。これは予想できたことだが、その現実が私には重くのしかかり辛かった。
商品価値のある魅Reyは作り物であると認めざる負えないからだ。
自分の中でうまく処理できない様々な思いを胸に、人々が行き交うスクランブル交差点の中に紛れるように歩き出した。
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