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「あんたのシャンプー、いい匂いするね」
「でしょ、ちょっと高いんだよ」
「ふうん、あ、ドライヤー貸してくれる?」
「あー、はい、鏡、これ使って」
風呂上がりの母のために、テーブルの上に鏡を置きドライヤーをセットする。
パジャマに着替え終えた母は、その前に座るといきなり強めの風で少しパーマのかかった肩までの髪の毛を乾かし始めた。
6月に会った時も思ったけれど、白髪増えたなあ。
自分が高校の時は、まだここまでなかったもんなあ。
言ったら怒られそうだから口には出さないけれど。
手櫛である程度乾かしてドライヤーを止めた母さんは、ふうっと大きなため息をついた。
「疲れたんでしょ、早く寝れば?」
とベッドを指さすと。
「あんたはどこに寝るのさ?」
と、他に布団でもあるのか? と言いたげにクローゼットを横目で見ていた。
「うん、まあ」
なんて笑って誤魔化しても、母にはお見通し。
「布団ないんでしょ、これしか。したら仕方ないねえ、一緒に寝るしかないさね」
「狭いっしょ。いや、違う、狭いとかじゃなくてさ! 無理だって! 今更、母さんと一緒に寝るって」
必死に無理無理無理と首を横に振ると。
「こんな寒い中で床に寝たら、あんた風邪ひくよ! 言っておくけどさ、手術終わって風邪ひいて咳なんか最悪だからね? 傷に響くよ? 痛いんだよ~?」
まるで脅すように悪乗りし、ニヤニヤし出した母。
久しぶりに見る明るい顔だ。
「したら、母さんが床に寝れば?」
「は?! あんた年寄りに酷い扱いするね!」
55歳になった母、まだまだ年寄りじゃないって普段は言うくせに。
こういう時ばかり年寄りぶる。
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