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部屋の電気を豆球にし、キッチンの灯りだけになったのを壁への反射で感じていた。
母さんは、あちこち開けてようやく見つけたらしいお米を研ぎ始める。
炊飯器の使い方、わかるかな? と心配になったけれど、どうにか予約タイマーまでできたみたい。
それからやっと静かに音を立てないようにベッドにきて腰かけて、布団には入らずただそこにいる気配だけがする。
暖房もとっくに切っちゃったのに、いつまでそうしてるの?
冷えちゃうじゃん、と今気づいたとばかりに振り向いて。
「ねえ、寒いでしょ? 早く布団入ったら、」
言いかけた私の目に飛び込んで来たのは、薄明りの下で静かに泣いている母だった。
「やだ、ごめん。違うのよ、あの時のとは」
私の顔が歪んだのに気付いたのだろう、母は慌てて涙を拭きながら笑顔を浮かべて首を横に振る。
「ごめんね、母さん、」
「違うんだってば。ここに来たからには、母さんだってもう覚悟決めてるさ。ちゃんと認めてる。たださ、あんたの名前、葵で良かったなあって、しみじみ思ってたの」
「え?」
「ほら、お姉ちゃんの名前、茜にしたじゃない? 赤の次は青だなって、葵にしたの母さんだしさ。茜だったら、きっとこの後困ったかもしれないけど、葵なら、ね?」
「うん……、葵で良かったって思ってる。この先もずっと葵でいるし。ありがとう、母さん、いい名前にしてくれて」
「そんなつもりで付けたんじゃないんだけどさ、今思うとそういう運命だったから葵にしたのかもしれないね」
涙を拭きながら笑う母さんに、自分も苦笑した。
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