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どっちつかずの性のままで、うまいこと大手に就職、なんかできるわけがなかった。
それでも、小さな会社の事務職について、社長も自分のことを理解してくれて。
気付けば周りの同僚たちも、差別的な目で見てくることもなく、親切に仲良くしてもらっていて。
この都会では、自分は特別な存在なんかじゃなく、そのままでいいんだと受け止めてくれる人ばかり。
だから、ずっと迷っていた、この体のままでもいいかも。
だけど、なんでだろう、苦しくて、苦しくて。
「迷ってるってことは、本当はそうなりたいんじゃないの? 葵くんはさ? ただ、きっと後ろめたいんだよ、ご両親に」
そんな自分の悩みを、大学からの友人サキちゃんにスッパリと言い当てられて、アッサリと腑に落ちた。
違和感のある身体ではなく、自分の本当の性別になりたかった、なっていいものならば、と。
ただ、そうなると。
五体満足生まれたこの身体にメスを入れるだけでなく、その後は男として戸籍も変わるのだ。
母の顔が浮かんだ。
自分を生んでくれた母の顔が。
会わなくちゃ――。
そう決意したのが、梅雨時の6月。
娘が息子になる、そんな報告は両親には驚きでしかなかったはずだ。
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