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実は男になりたいんだ、昔からずっと自分は男だったんだ。
手術をすることを許してほしい。
そう言った瞬間、母は薄ら笑いを浮かべて、ため息をついた。
「なに、バカなこと言ってるのさ! 東京でそういうの流行ってるからって、のらなくてもいいでしょうや!」
あまりバカな話、しないでよ。この話はこれでおしまい、と自分の前から逃げるように立ち上がった母の腕を捕まえた。
「違うんだって、母さん! だって、ずっとスカート履かなかったでしょ? 履きたくなかったんだよ! なんか、変だって。なんで履かなきゃなんないの、って。だからね? 手術受けたいんだ、受けて認められれば戸籍上も男の子になって」
「なに? 男の子になりたいのって、好きな女の子でもいるっての?」
「違うって。今はいないって」
「今はって、なにさ?! 今までいたの? あんた、女の子だよ? おかしいでしょ!! もう、いいからこっち帰っておいで、見合いでもして子供生まれたらあんただって普通にお母さんになってさ、」
言いながら泣き出した母さんに、必死に首を振る。
なんで? どうして、わかってくれないの?
「母さんが、何て言おうと男になりたいの。わかってよ、母さん」
「なして?! なして、いきなりそんなこと言うのさ!!」
もう聞きたくない、としゃがみ込み耳を塞いでしまった母さん。
台所にいる父さんの背中も泣いていた。
自分も泣いた、泣いて泣いて、それでもやっぱり母さんや父さんには伝わらないんだって、わかって。
実家を後にした。
もう帰るつもりは、なかったんだ――。
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