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抱きしめられた母の胸の中。
その左胸は右胸に比べて少し小さい。
自分が中学生の頃、母の胸に癌が見つかって、その周りも抉るように一緒に取ってしまったから。
「おっぱい、切ったら痛いんだからね?」
「うん……」
「痛くても泣くんでないよ、自分の意思で切ってしまうんだからね?」
「わかってるよ……」
ああ、こうしてただ切ってしまうならば、あの時の母にあげれたら良かったとか、バカなこと考えちゃって。
しゃくりあげ、止まらなくなった涙は、母の小さい方の胸に吸い込まれていくようだ。
この先、何度かの手術を繰り返していく。だけど最初に感じる痛みを忘れることはないだろう。
心の痛みと共に。
「母さんが、おっぱい取っちゃった時、目が覚めたら、あんたがいてくれたでしょ? 病院で」
「だって、あの時、お姉ちゃんとお父さん、喉乾いたからって売店行っちゃっててさあ」
「ねえ、薄情! 心配してなかったのかね」
クスクスと笑っているのが胸の中でもわかる。
「今度はさ、葵が目を覚ます時に母さんいるからね?」
「いいよ、ついてなくて」
「いたいのさ! あの時、あんたの顔見て、まだまだ母さん頑張らないとって思ったの。したって、わんわん泣いてたんだもの! 『母さん生きてて良かった』って。したから母さんの顔見たら、あんたもこの先また頑張ろうって思うんじゃない? 死ぬ気で頑張ろうって思うはずだわ、きっと」
「……、どっから来るのさ? その自信」
母さんの言葉に泣きながら笑った。
母さんもきっと同じような顔をして笑っていた。
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