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まさか、来るとは思わなかった。
だってあのメールを出したのは今朝のことだ。
それから北海道神宮まで行って、千歳空港で飛行機を待ち、羽田空港からここまでどうやって来たんだろう?
電車? バスかな?
大学で上京した時に、この部屋の契約に一緒に来たのはもう6年も前で、それきり一度も来てなかった。
札幌と比較しても、大きなこの東京で迷わずに来れたのだろうか?
言ってくれたら空港に迎えに行くこともできたのに、水くさい。
いや、水くさいのは自分か。
メール一本で済ましてしまおうとしていたんだから。
『なして?! なして、いきなりそんなこと言うのさ!!』
聞きたくないと耳を塞ぎ、しゃがみ込んでしまった、夏の日の母の姿が未だに脳裏に浮かぶ。
許せないとか、許したくない、じゃないんだ。
母は、事実を認めたくなかったんだと思う。
もしかしたら、そんな反応をされるかもしれない、と覚悟は決めていたというのに。
自分が思い描いていた予想通りの母の姿に相当ショックを受けた。
父はリビングで起きているこの修羅場に背を向けて、台所で麦茶を飲んでいた。
コップを持つ手が震えていて泣いているのがわかり、胸が苦しくなる。
ごめんね、母さん。
ごめんね、父さん。
泣かせてしまって、ごめんね。
わかってなんかくれなくていいからさ。
もう自分のことは忘れてしまってくれればいい。
母の狂ったような泣き声に背を向けて逃げるように東京へ戻って。
あれ以来だ、母と会ったのは。
もちろん、父にも会っていない。
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