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「さて歯磨いてくるわ、明日早いんでしょ? 病院行くの」
「うん、8時には出るかな」
「したら朝ごはん食べれるね、秋鮭の粕漬持ってきたの。後、イクラも冷凍してたの、明日の朝には溶けてると思うわ」
どれもこれも自分の好物ばかりだ、さっき冷蔵庫を開けた時に気づいた。
歯磨きをしながら説明する母に、気づかれないように目尻に溜まっていたものを拭う。
小さくため息をつき、ふとテーブルに目を落とすと、スマホの点滅に気付いた。
誰からのメッセージだろうか?
「……、もう」
開けた先には父さんからのメールがあった。
――母さんのことよろしく頼む。しばらく預かってくれ。正月は帰ってこい、待ってるから。
「どうしたの?」
スマホを見つめたまま、固まっていると母が戻ってきて首を傾げた。
「父さんから、これ」
苦笑して、その文面を母に見せたら。
「ねえ、なんなのよ! 預かってって。私が面倒見に来てるんだっての!」
失礼しちゃうよね、と頬を膨らました。
「正月、帰ってくるんでしょ?」
毎年帰っていた、だけど来年からはもう帰らないでいるつもりだったのに。
「……、帰ってもいいの?」
「バカだねえ、……いいに決まってるっしょ、あんたの実家なんだから」
ワシャワシャワシャと母に頭を撫でられたら、また涙腺がおかしなことになりそうで。
「もう、寝るね」
とクッションを枕に布団に入り、母さんの方に背を向けた。
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