君の手をとって笑いあって、そしてふたりで言葉を繋いで

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 月冴には昨日のうちに伝えてあった。  誕生日当日は〝会えない〟と。  だからなのだろうか──言葉こそ濁したが、俺が出かけることそのものに、疑問は持っていないようだった。 「あぁ、墓参り」 「ひとり? おじいさんは?」 「急な欠勤が出て代わりに出勤になったんだ。だから、俺ひとり」 「そうなんだ」  姿の見えない身内の行方がわかると、納得したとでも言いたげに頷く。  高校生ともなれば、ひとりである程度遠くまで行くことに抵抗が無くなっている年齢だ。そうなるのは当然だろう。 「そういうお前は? 散歩にでも行くのか?」 「ううん。バッシュの紐が切れかかってたから買いに行こうと思って。ついでに新しいバッシュも見てこようかなって。この辺大きいスポーツ用品店がないから、都心まで出ようと思ってさ」 「バッシュ……あぁ、あのキュッキュ鳴るやつか」 「そ。キュッキュ鳴るやつ」  抽象的な物言いにクスリと漏れ出る笑い声は、俺のことを馬鹿にしているとかそういう意味合いではない。  月冴に言わせると、俺のこの抽象的な物言いは〝かわいい部類〟に入るらしい。どの(へん)が〝かわいい〟のか、俺にはサッパリ理解できないが。 「尚斗も都心の方に出るの?」  スマホで電車の時間を確認し終えたのか、月冴が視線を上げて俺を見る。  その言葉に「あぁ」と相槌を打つ。    ふと……頭の中に妙案が浮かんだ。 「一緒に行くか?」 「えっ……?」  含みを持たせた言い方に、月冴が目を丸く見開いた。  普段そんな気を抜いた顔をしないものだから、堪らなくなって失笑した。 「そんな驚かなくても」 「やっ、だって……」  的中率は三分(さんぶん)(いち)。  駅までか都心までかそれとも──。
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