君の手をとって笑いあって、そしてふたりで言葉を繋いで

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「こんなところにお寺があったの……知らなかった」 「いくつかルートがあるんだ。こっちの方にも別の路線が通ってるから、本来はそっちの方が近いんだけど。まぁ歩けば来れるから」  石段を登り、登りきってすぐの花屋に入る。  カラカラと戸の開く音に気づいて、奥から人が出てきた。 「あら、尚斗君」 「おはようございます。あの、花と水桶をお願いしてると思うんですが」 「えぇ、おじい様から聞いてるわ。ちょっと待ってね」  この花屋とも十年来の付き合いになる。初めて来たのは五歳の時だ。  当時はべそべそ泣いてばかりで話しかけられてもロクに返事もしなかったが、来る(ごと)にそれもなくなり、いまやすっかり話せるようになった。 「じゃあこれ、お花と水桶ね。お線香は? お寺さんで貰う?」 「そうします」  会計を済ませ、花と柄杓(ひしゃく)入りの水桶を持って本堂の住職を訪ねる。  気配に気づいて振り返った住職は、俺の顔を見るなり、 「やぁ、尚斗君よく来たね。大きくなって」  と言った。  朗らかに笑う住職を見ながら、 「……去年と同じこと言ってら」  やや呆れ気味に肩を(すく)めると、 「ハッハッハ。まぁそう言いなさんな。年に何度も会わないんだ、最近の子はちょっと見ない間に大きくなるから」  などと言う。  せめて俺の背が五センチでも伸びていたら、その言葉を素直に受け止められただろう。  しかし現実とは非情なもので、そんなに都合よくいくわけがないのだ。 「身長一センチも変わってないですよ」 「おや、そうかい」  住職は悪びれなく言うと目を丸く見開いた。 「見ればわかるだろう」──その言葉はどうにかこうにか飲み込んだ。
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