君の手をとって笑いあって、そしてふたりで言葉を繋いで

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「お線香いただけますか?」 「あぁ、ちゃんと用意しているよ」  住職から線香の束を受け取り、月冴を連れて本堂裏手の墓地へと向かう。  都心部が一望できるその場所の、少しだけ奥まった位置に姫乃井家の墓がある。 「……来たよ」  陽の光に照らされて、乾いた墓石が反射した。  母と祖母が眠る墓前にしゃがみ込む。 「今日、俺だけでごめんね。ちゃんと綺麗にしてくからね」  それだけ告げて立ち上がると振り返った。 「悪いな、荷物持ち」 「ううん、平気。ゆっくりしていいからね」 「……ありがと」  月冴に仏花と線香を手渡して水桶を手に取った。  柄杓で桶の水を汲み、ゆっくりと墓石にかけてやる。  おろしたての雑巾を濡らしてから固く絞り、隅々まで綺麗に拭き上げ、花立も磨く。  そんな俺の行動を、月冴は傍に立ってただひたすら見守っていた。  墓の掃除を終え、月冴から受け取った花を供えてから、火をつけた線香を墓前に供える。  いままでずっと一歩引いた所にいた月冴が、おもむろに俺の隣に並んだ。  確認するように、俺へと視線を向け、 「一緒にいいかな?」  と、問いかけてきた。  断る理由なんてない。  小さく頷いた。 「……もちろん」  ふたりで手を合わせ、偲ぶ。  しばらくそうして目を開けると、穏やかな秋の風が吹いた。
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