君の手をとって笑いあって、そしてふたりで言葉を繋いで

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「……母さん、ばーちゃん。俺、好きな人ができたよ」  そっと──隣に立つ月冴の手を取る。  言葉に、行動に驚いたように、月冴が俺の顔をじっと見つめてきた。    伝えるなら、いまがいい──母と祖母と月冴に、自分の想いを伝えるんだ。 「ずっと一緒に生きていきたいと思える、大切な人ができたんだ」  ゆっくり月冴の方を向く。  交えた視線を逸らすこと無いまま、想いを言葉にしていく。  自然と、自らの表情がほころんでいくのがわかった。  次の言葉を伝えるために唇をゆったりと開く。 「俺の過去も、してきたことも全部知ってる。こんな俺が、誰かと幸せになるなんて、そんな望みを叶えて良いのかって思ったりもしたけど……それでも、俺を選んでくれたコイツのことは、諦められないんだ」  掬い上げた細い指先を握りしめた。  (月冴)を愛おしむ気持ちと、伝えきれない想いが、まるで水流(すいりゅう)のように止め()なく流れ、言葉となって溢れる。  その一音一音に、鮮やかな(イロ)をつけて。 「曇狼月冴っていうんだ。明るくて活発で、頭も良くて優しくて、すげぇカワイイんだ。……大好きなんだ」  目を閉じれば走馬灯のように巡る、いままでの出来事が、脳裏に流れ──…そして。 (──なおとっ!)  頭の中で呼ぶ声が響く。  大輪の花のように咲く(月冴)の笑顔が浮かぶ。  水面(みなも)を広げたように揺らいだ視界の中に、しっかりとその姿を映して告げた。 「いま俺、すげー幸せ」 「尚斗……」  気持ちが昂り、自分が笑っているのか泣いているのかさえわからなかった。  ただ──。  目の前にある腕が、俺の躰を優しく包み込んで。 「俺もだよ……」  そう囁いてくれたことだけは覚えている。
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