8月13日

12/12
前へ
/17ページ
次へ
「まあ、そういうことだから、日向はそろそろ向こうの世界にお帰り」 「は?」  そんな簡単に戻っていいの? 「だって、お前は死んでないもの。そうだね、後80年もしたら、ここにおいで」 「私、100歳まで生きるんですか?」  それって、すごくない?  大喜びで、聞き返した。 「ぬか喜びさせて悪いけど、令和の時代に合わせた言い方しただけだよ。私にはお前の寿命も見えているけど、本当のことを教える訳にはいかないからね」  そんなことまで分かるんだ。 「え? ちょっと待って。ということは、私、地獄行決定なんですか?」 「そうだね……。もしくは……。あるいは……」  急に篁さんが歯切れ悪い言い方をした。  地獄行に、私は身に覚えだらけだ。 「日向は何か悪いことをしているのかい」 「はい。こう見えて、ぼーっとしているのでよく忘れ物をします」 「そう。見たまんまだよ」 「後、返済期限過ぎているのにまだ図書館の本を返していません」 「それは……よくないね」 「時間にもルーズで、友達を待たせることもあります」  あ。篁さん、今(私の子孫、残念)って顔になった。 「今からでもいいから、その生活を改めなさい。塵も積もれば罪となる」  なんか諺風にまとめられた。 「……それに冥府に通ずる井戸を開けてしまったからね」  それで篁さん、さっきから浮かない顔なのか。 「それって……知らなかったのにヤっちゃったのは罪になるんですか?」  私は篁さんにすがった。 「おそらく……大罪だよ。自分の住まわぬ世に干渉することは」  申し訳なさそうに、篁さんが答えた。  ああ、篁さんを責めたわけじゃないのに。  申し訳ない気持ちと、将来地獄行に 「そんな……」  私は、俯いた。  そんな私を見かねて、篁さんが 「私の方で閻魔様には話をしておくよ。落ち込まないでおくれ。子孫の為に、頑張るから」  と言ってくれた。 「お願いします……」  しょぼくれた返事をひとつして、ようやく私は地獄から帰ってくることができた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加