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①意地《十回目のプロポーズ》
真っ白な海軍の制服、白く輝くその人に『結婚したい』と伝える。
緑のプロポーズは、これで十回目だった。
「ごめん、その話はまた帰ってきたらね」
カウンターで彼女が気怠そうにため息をついた。
これもいつもの彼女の態度だった。
「それよりさ。出かける前にせっかく、緑君のところに来たんだから、いつものくださいな」
「答えないやつには出さない」
「じゃあ、要りません。さようなら。行ってきます」
いつもは、緑がつくるレモネードを飲んでから仕事へと向かう彼女が、あっさりとなにも飲まず食わずで旅立とうとしている。
「いいんですか。マスター」
地元でやとっているアルバイトの女の子が、心配そうに緑を見る。
緑が意地を張っている間に、彼女が店のドアを開けて出て行ってしまった。
スーツケースを片手に引きながら、レモンの樹で茂る丘の小路を下っていく。
その白い制服の背中を何度見送ったことか。
この島で高校の同級生だった。
卒業後、彼女は軍人の道へ進み、緑は一時都市部の飲食業界で料理人修行をしたが、地元の島に帰ってきて実家の蜜柑農家を手伝っていた。
密柑山は兄が跡取りとなり、いまは蜜柑以外にレモンなどの柑橘も育てている。
緑も農業を手伝いながら、その密柑山の丘の上、レモン実る小路の脇にカフェを経営するようになった。
海が見えるレモンの丘のカフェとして、それなりに客が入ってくる。
そこでいつも彼女の帰還を待っている。
ふつう、男が軍人で、女が地元で待っているものなのだろう。
いまの世の中、男だからこの仕事、女だからこの仕事もなくなった。
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