662人が本棚に入れています
本棚に追加
「死ぬかと思った。詳しくは言えないけれど。ほんとうに一歩間違っていたら、私の艦、爆撃されていた。回避できたからいい……、じゃないの! あの日の夜、私、怖くて泣いていた。もしかしたら、緑くんに二度と会えなかったかもしれない。遺体になっても、家族じゃない緑くんは私に会えないし、引き取れないかもしれない。あの日、すれ違って別れたままにしていたら、緑君も私の意地のために悔いる日々を遺していたかもしれないって……そんなのイヤ!」
ゾクッとした。乃々夏のそこまで染みこんだ海軍軍人としての心構えと覚悟にだった。ただ怖くて二度と会えないかもしれないから、だから結婚しようではなかった。
『死してもなお、帰るべき場所は緑のところでありたい』――という彼女の、感覚と、緑への気持ちの深さが、だった。
緑も涙がこぼれてきた。
レモンの緑の葉がさざめくそこで乃々夏を深く胸元にかき抱く。
「わかった。その時も乃々夏が帰ってくるのは、このレモンの丘の俺の店だ。俺が最後まできちっと引き取ってやる」
「いままで……、なにもなくても、ここに帰ってくればいいと思っていたから……、それだけでいいの……わたし、緑君のところに帰れたらいいの」
「わかった。任せろ。おまえが帰ってくる場所、俺が守るから」
「うん。愛している、愛してるの、緑君しかいないよ」
緑より背が低い彼女から、クッと背伸びをして緑の口元へとキスを押しつけてきた。
「の、のの……か……」
激しい口づけの合間に、乃々夏はなんども『すき、あいしてる、りょくくん、もうはなれない』と呟くものだから、緑も感極まってそのキスに吸いつき、対抗するように強く彼女を愛していた。
最初のコメントを投稿しよう!