③結婚とは《死してもなお……》

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 レモンの丘で、緑の葉がさざめくそこで、待ちくたびれた男と置き去りにしてきた女が深く抱きあう。  瀬戸内の潮風の中、緑はやっと白い制服の彼女の肩を抱いて、丘の道をのぼり始める。 「レモネード、作るよ」 「もう金曜日じゃなくても頼んでもいい?」 「金曜日はカレーだけにしとけ」  仕事に関することは、この丘の家ではなし。  彼女はこれからも、ここに還ってくる。  たとえ殉職して死しても、ここに。彼女が最後にと望む場所はこのレモンの丘で、そして緑だけだ。 「……ほんとうは子供もほしいの、でも、私……海に出てしまうから」 「そんなことを気にしていたのか。おまえ、俺がどれだけ家事が優秀かまだ認めていないのか」 「だって……全部まかせちゃうことに」 「俺も子供ほしいからな。とっとと産めよ。俺が子育てがんばるから」  やっと彼女が笑顔になった。  それがいままでずっと言えなかったのだろう。そしてやり過ごして、やり過ごして、どうすればいいのか思っているうちに、今回のような死線を彷徨う出来事に遭遇し、初めて『本心』をむき出しにされたのかもしれない。  その彼女が店のドアまでやってきて、緑に肩を抱かれたまま、丘へと振りかえる。 「私が帰ってくる、緑の場所。甘いレモネードの匂いがするの」  そうだな。緑も瀬戸内の海からそよぐ風の中、彼女と緑とレモンが揺れる丘を眺める。  ここは彼女の家になる。  緑の葉、青いレモン、そして待つ男『緑』。  Green、Green、スイートホーム。  緑が彼女のために守っていく。 (終)
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