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そんな彼女は男に囲まれて仕事をしているもんだから、毎回無事に帰還するまでヤキモキしている。
二ヶ月以上も海上で艦に隔離されるうえに、男に囲まれるなんて、なにかがあったら逃げ場がないじゃないか!! そんな緑の焦りだった。もう、誰にも手を出させない、手を出したとしても徹底的に夫の立場という強権にて、こてんぱんにやっつけて、密柑山の肥やしにするか瀬戸内のサメに喰わせる――という状況をどうしても手に入れたい。『夫』という彼女の『守護』になりたいのだ。
だからお願いだ。俺の、俺だけのものになってくれよ~。
プロポーズはキリッと男らしく、少し押しを強くして真顔で『結婚してくれ。おまえの還る家になるよ』と告げるのだが『いまは要らない』と言われ玉砕すること十年――。緑の内心は毎回ぐずぐず泣いている。
「追いかけなくていいんですか、マスター」
アルバイトの彼女の声で我に返る。
「……いつものことだよ」
さすがに十回目になると、なにがいけないのか問いただすべき機会ではないかと思いたくなってくる。
若い彼女がじっとりとした目つきで、緑を睨んでいた。
「マスター。私がこの島にお嫁に来て、働くところがなくて、やっとここでやとってくれたでしょ。その時の理由を覚えています?」
まだ二十代の若い彼女に問われ、緑も彼女と面接した時を思い浮かべる。
『え、マジ? 広島の実家のお父さん、岩国基地の軍人だったんだ』
『ええ、はい。そうですけれど……』
『採用! 俺も岩国基地大好き!』
採用されたのに不信感を抱いたような彼女の顔を思い出している。
「お父さんが岩国の軍人だったから。定年で退官したんだろ」
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