②絶体絶命《レモネードを飲まなかったばかりに》

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②絶体絶命《レモネードを飲まなかったばかりに》

 出航前、乃々夏がレモネードを飲んでいくのが習慣だった。  無事を祈っての願掛けのつもりもあったと思う。  なのに。今回に限って――。 「マ、マスター! 新聞を見ましたか!?」  乃々夏が出航をして一ヶ月ぐらい経ったころだったか。  アルバイトの千草が朝イチに店に出てきて、支度をしている緑へと新聞片手に飛びついてきた。  まだ新聞を見ていなかったため、緑は千草から受け取ったものを広げて愕然とする。 【 コーストガード、武装船舶集団から襲撃 巡視船に着弾 】  新聞の一面には、海上保安を担うコーストガードの巡視船から白煙があがり、左舷が破損している写真が大きく掲載されている。  場所は本国と対国の摩擦が常に止まない東シナ海、沖縄付近海上。 「マジで……、こっちの海上保安を攻撃してきたってことかよ」  でも海軍への攻撃ではなかった。被害を受けたコーストガードには申し訳なかったが、乃々夏の艦ではなくて緑は安堵する。  だったら、千草ちゃんったらなにをそんなに真っ青になっているの――と、緑は言い返したくなったが、記事の小見出しに気がつき、その内容に言葉を飲み込む。 【 近海航行中の海軍艦隊にも、武装漁船が接近 空母標的か 】  そばに連合軍の海軍がいて、その艦隊も狙われていたと知り、やっと緑も青ざめる。 「どこの艦隊だ」 「主要空母は小笠原からでているものなんだけれど、この空母の周辺を守っている護衛艦は岩国から出ているって……、父から聞きました」 「乃々夏の艦か」
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