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「詳しいヤツひっぱりだして聞き出す」
「ダメだって、いちばんわかっていますよね。マスターが! 乃々夏さんが軍人の守秘義務でたくさん言えないことわかっていて、それでも、いつも黙ってそばにいるんでしょ」
「あいつと同期とか同僚とか、陸に待機している上官とかいるんだろ!! 俺は、あいつの、家族みたいなもんだぞ!!」
「まだ、家族じゃないでしょ!」
一発で仕留められるひと言を、千草が言い放った。
瀬戸内の海を越えて、むこうにある岩国へと飛び出そうとした勢いが一気に萎えていく――。
『どんなに愛して心配していても、家族ではない』
いまの緑をいちばん弱らせる言葉。
「言いたくないけれど。マスターの立場は、まだ他人なんですよ!」
だが千草もふたりを思って言ってくれているのだとわかっているから、怒鳴れない。
何故か千草も涙目になっている。
「基地へ殴り込むように行ったところで、乃々夏さんに迷惑がかかるだけですよ。こんな時、家族だってじっと待つしかできないんです。うちも、そうでしたから!!」
「そんなこと、あったのか。千草ちゃんの、父ちゃんも」
「……母が泣いている時、ありましたもん」
「そ、そっか……」
経験者だった。そしてきっと彼女は子供で、いつも頼っている親の不安そうな姿を見ているしかなかったのだろう。
家族ですら案じることしかできない。それが公務を担う家族を持つ者の定めなのだと言われた気がした。
そして、初めて――。
ただの押しつけではダメだったのだと悟る。
もっとしっかりと『家族になる覚悟』を彼女に伝えていなかったんだと緑は気がついた。
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