(イ)第三十三話「僕も飛び出そうか……」

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(イ)第三十三話「僕も飛び出そうか……」

 一週間ほどセキセイインコを仕事場に預かることになった。  友達が家族旅行に行くからだ。  きれいな黄色と青色のセキセイインコだ。  「黄P―」と「青P―」と名付けた。  朝、掃除をして水をかえてエサをやる。  時折、ピヨピヨとかキュキュッとか鳴いて、僕の手を休ませてくれる。  朝から晩まで仕事場にこもりっきりの僕にとって、とてもありがたいお客さんだ。  5日目だ。  少し慣れてきた僕が悪かった。  黄P―が逃げ出した。  掃除をしている隙に籠から飛び出したのだ。  ばたばたと不器用に事務所の中を飛びまわる黄P-!  追いかける僕。  いや待てよ。  こりゃいかん。  窓だ窓!  まず窓を閉めないと!  慌てて事務所の窓を全部閉め鍵をかけた。 『逃げちゃっただってぇぇ!!!!』  その間、友達の悲しそうな顔が頭をよぎった。  全部の窓を閉め終えるまで、多分、大人になってこのかた、これほど心臓がドキドキした事はなかった。  これでゆっくり勝負が出来る。  しかし飛び方を思い出したのか、黄P―は逃げるのがうまくなっている。  隅に追いやる度に逃げられ、手の平に入れたかと思えばすりぬける。  一時間は追い回したか、何とか籠に戻した。  身も心もくたくたになった。 「こら、黄P―、もう二度と籠から出るなよ。少しは青P―を見習え!」  もちろん二羽とも反応はなかった。  そして昨日、無事に旅行から帰ってきた友人に二羽を返した。  二匹のいなくなったこの事務所は、また、元の四角い静かな部屋に戻った。  あれ以来、締めきっていた窓を開けた。  外の空気を吸った。  と、なぜか自分では思いもしなかったことを思った。 「僕は黄P―だろうか?青P―だろうか?」 fc14b176-f46f-47ae-9a17-d15098d02dc2
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