妖怪オタクの僕

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妖怪オタクの僕

 木々が生い茂る森の奥深く、誰によって、いつの時代に建てられたのかわからない古い神社がある。  信仰の深い人々に見守られ、成長した新たな神ーー天狐ーーーには、二匹の弟子がいた。  一人は、冷静沈着、正義感が強い、剣の使い手で、天狐を崇拝している青い目をした『蒼月』と名の狐。  もう一人は、純粋無垢の悪戯好きで、蒼月を兄と呼び、尊敬をする赤い目の見習い狐、名を『日月』と呼ぶ。  そんな二人は、天狐を守る為に、鮮やかな朱色が目を引く鳥居の下で鎮座していたのだが、ある日を境に、天狐は神社から離れ、蒼月と共に天上へと戻り、残された日月は、妖かしとなり、朽ち果てた神社から離れずに還らぬ人を待っていた。 107年後ーーーー夏。  終業のチャイムと同時に、机の横にぶら下げていたランドセルを背負うと、声をかけてきた同級生を軽くあしらい、下駄箱から取り出した靴を投げるように落とす。  踵を踏んでることさえ気にせず、下校で群がる人の間を潜り、窮屈で仕方なかった学校の門を抜けると歩みを止め、オレンジ色に近い、夕焼けのの空を見上げた。  夕月を確認し、持っていた冊子をギュッと抱きしめて息を吸う僕、ーー天野辰徳ーーは、みんなが帰る方向と反対方向の道を走り出す。  僕はオタクと言われるぐらい妖怪が好きだ。  家族よりも学校にいるバカ共よりもだ!  僕は、これからその妖怪に会いに行く。  人間をたぶらかし、人に化ける妖狐にだ。  全速力で坂を駆け上り、立ち止まった先には数段の階段と、本来の色を無くし、灰に染まった古びた鳥居。  その鳥居を守っていた狐の像は跡形もなく、ただ、そこに存在していたという台座だけが残る。  神社を隠すように生い茂る草は、僕の身長を越している。  『神無し神社』  おじいちゃんの年代より上の人は、このボロボロになった神社をそう呼んでいた。  『神無し神社』にはある噂がある。  この神社を訪れ、笛の音を聞いた人は、記憶を消され気づいた時には、神社の姿はなく、家の寝室で寝ていたという。  その話が例え噂だとしても、陽の光をなくした神社は、不気味さを醸し出し、誰にも寄せ付けない雰囲気に生唾を飲み込んだ。  何故、僕がここに来たのか、そのきっかけは、数日前に遡る。    『そんなに妖怪が好きなら』とおじいちゃんが僕にノートのようなものを渡し、僕は、冷ややかに僕を見る親の視線を無視して喜んだ。  そのノートは、じいちゃんのじいちゃんが大事に持っていた物で、しっかりと閉じていた黒い紐を解き、厚く硬い表紙を開けると、教科書で見た偉人の文と似ている達筆な文字が、紙いっぱいに広がっていた。  漢数字で書かれた日付けの下には人の名前なのかはわからいけど、『日月ーひつきー』という二文字。  僕は、食べる事を忘れ、周りの声さえも耳に入ってこないほど、その日記に夢中になっていた。
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