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じいちゃんのじいちゃんが書いた日記
ひいひいじいちゃんの日記に書かれている日月という人は、天狐の元で守護をしながら修行をしていた狐。
ひいひいじいちゃんに太陽な笑顔で声をかけてきた事から始まるその日記は、日月の人となりが書かれていた。
日月は、好奇心旺盛の勉強家、純粋無垢で子供のような悪戯が好きな人。
ひいひいじいちゃんの話を目を輝かせながら聞き入り、色々質問していたとか……
そんな日月との話ばかりが書かれていた日記は、少しずつ不穏な空気へと変わっていく。
『第一次世界大戦』
私の所属している隊にも、国外で起きている戦
争への招集がかかった。
身籠った妻は大事にと涙を流したが、日月は赤
子の様に泣きながら駄々を捏ねた。
日月は私が腰に下げていた刀に触れ、何かを囁
くと顔を上げ太陽な笑顔でこれで大事ないと笑
った。
そこで僕の頬に何かが伝い、胸の苦しさに耐えきれなくて、閉じた日記を胸に抱いた僕は、『日月』の名前を叫びながら、声を出して泣いた。
もう一度会いたい。
なぜ、そう思ったのかわからない感情が、僕を『神無し神社』へと突き動かしたのだから、この奇妙な場所に、怖いと思って帰れるわけがない。
日月に会うまでは……
大丈夫
どこからともなくやってきた自信が、僕を一歩、また一歩と足を運ばせ、石畳の横を通り終えた所で顔をあげれば、荒れ放題の中に半焼した拝殿が現れた。
ここで合ってるのかな?
半信半疑の僕は、辺りに誰もいない事を確認し、肺にこれでもかというくらいの空気を送り込むと、普段出したこともない声量で、彼の名前を何度も暗くなった空へ向けて叫んだ…………けど、
何も起こらない。
やっぱり駄目かと、肩を落とし、帰ろうと身体を反転させたところで、突然、等感覚で置かれていた灯籠に、オレンジ色の焔が灯された。
灯籠の焔があたりを明るくさせ、荒れていた拝殿は、ゆっくりと元ある姿へと変わっていく。
やがて、風と共に聞こえてきた笛の音に、カラン、コロンと下駄の音が鳴り響いてくる。
誰かが上がってきたと感じた時には、もう僕の目の前に人が……
いや、人ではない。
黒地に散りばめられた花柄の羽織を肩にかけ、中に着ている赤い着物は白い肌が見え、片目を隠した長い黒髪に尖った耳。
その姿は、どこをどう見ても
妖狐だ、間違いない。
「俺の名前を呼んだのは童か?」
僕の前に立ち、見下ろした日月は、ひいひいじいちゃんが書いていた『日月』とは正反対で、月の様に冷たい目で僕を見下す。
「日月?」
「いかにも、童はなぜここに?迷ひ子か?」
僕の背丈と合わすように膝を折り、頭を優しく撫でてくるその手に、僕は日月の名前を何度も呼びながら涙を零す。
驚き、慌てる日月に背中を撫でられていたはずなのに、気がついた時には、神社も、日月の姿も消えていて、その変わりに、毎日見飽きるほど見ている部屋の天井だった。
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