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大丈夫、僕がいるから
通された拝殿の中はとっても広く、檜の香りが充満していて、朽ちていた神社が、本当はすごく立派な神社だったと言うことがわかった。
暖簾の前に一段高い台座を日月は素通りし、ふすまの前で胡座をかく日月。
僕も日月と同じように、胡座をかいて日月の前に座ったのだが、暖簾の前にある台座が気になって話を切り出せない。
そちらをずっと見ていた僕に、日月はぽつりと、苛立ちを混ぜた声で伝えてくる。
「そこは天狐が座る場所だ」
「天狐?! 天狐までいるの?!」
「居ない……俺が追い払った……」
妖狐の最高位、神にも近い存在の天狐があの台座に座っていたことの感動が、僕の目を輝かせるはずなのに、追い払ったという日月の曇った顔が、僕の好奇心を次第に薄れさせていく。
天狐と日月の間に何があったかはわからないけど、ずっとここで一人で日月は過ごしていて、苦しかったのかな?寂しかったのかな?
笛の音だけが聞こえる静かな時間。
日月の思いを考えただけで、僕の胸はぎゅっと何かに掴まれているようで苦しくて、月を見上げている日月から目が離せない。
もしかしたらマズイことを言わせてしまったのかもしれない……黙ってしまった日月になんと声をかけようか迷っていたけど、考えるより先に身体が動く。
日月の側に近づき、立っている僕より少し低い日月をギュッと抱きしめ、背中を数回撫でると日月はびっくりしていたが、咎めるでもなく、なすがままだ。
これは、僕が落ち込んだ時、家族みんながしてくれた事で、日月にもしてあげなきゃって思っただけなのに……
「日月……大丈夫……僕がいるから」
何故、僕が日月にそう言ったのかも、抱きしめた僕に、日月がうつけ者と力強く抱きしめたのかも、そんな事、小学生の僕には全然わからないけど、これだけはわかる。
僕は、日月の事をとても可愛くて、とても大事にしたい存在だと言うことを……
✱✱✱
その日の帰り、明日も会いたいという僕のお願いを日月は聞き入れてくれたけど、名前を呼ばれるのは迷惑だと、小さな鈴を日月から渡された。
試しに日月の前で揺らしてみせたが、鈴の音は全く聞こえない。
鳴らし方が悪いのかな?と何度も揺してはみたけど、いくら振っても音は出ず。
壊れてんじゃないの?
そう思って、もう一度振ろうとした手を日月が腕ごと掴み、眉根を寄せて見てきたからドキッとした。
か、顔が近い……近いよ日月……
「喧し!その鈴音は俺にしか聞こえん」
「ご、ごめん……てか、そんな大事なこと、渡す前に言うのが普通だろ?」
「ほう、ならば返せ」
「貰ったものは返せません」
ふん。と鼻で笑った日月の手が、僕の目を塞ぎ、数分後に現れた景色は、朽ち果てた神無し神社で、勿論、その景色には日月の姿はない。
日月の言葉を信じないわけじゃないけど……
手の中に収まった鈴に半信半疑になりながらも、鈴を上着のポケットに入れると、母親に怒られる覚悟を決め、ひいひいじいちゃんの日記を抱きしめ全速力で走り出す。
多分、僕の口元は緩んでるだろう……だって日月と再会できただけでなく、友だちになれたのだから……これで退屈な日とおさらばだ!
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