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鈴の音と日月
思ってた以上に母親から怒られ、誤りながら食べた朝食を味わう事なく、僕はおじいちゃんに日記を返す為、慌てて家を出た。
登校中にあるじいちゃんの家により、水やりをしていたおじいちゃんに声をかけると、日記を差し出したのが、僕に上げた物だからと返されてしまう。
家に帰るとしても時間がかかるし、とかうだうだ考える時間が勿体なく、日記をランドセルの中に入れ、いってきますとじいちゃんに手を振って全速力で学校へと急ぐ。
✱✱✱
なんとか間に合った学校の門を潜り、クラスメイトと交わす挨拶を適当にすませ、つまらない学校、つまらない人達に囲まれる現実に落胆しながらも、日月の事をずっと考えてる僕は、まるで、日月に恋をしているようで、思わず笑ってしまう。
人間と妖怪の恋か………ひいひいじいちゃんも日月に恋してたのかな……
授業中も、日月に会ったらどんな話をしようとか、どんな話が興味あるんだろうとか、色々考えながら過ぎた前半の授業を終え、立入禁止のロープが貼ってある屋上に来ていた。
ロープを潜り、重い扉を開けると、青い空と共に明るい光が飛び込んできて、思わず眉をしかめる。
給食を食べ終えた昼休憩は、誰もいない静かな屋上が僕の居場所。
日陰になっている所を見つけ、寝転がると、ポケットに入れてあった日月にしか聞こえないという鈴を一回鳴らす。
「……って来るわけないよな……じゃぁ、念じれば来るとか?」
学校で一人でいる事なんかすでに慣れているはずなのに、今は誰かと……違う、誰でもない、日月と話がしたい……さっき会ったばっかりだけど会いたくなるのは、僕が妖怪を好きだから?
それとも……僕が日月に恋をしているのから?
日月に会いたい! 日月に会いたい!
腕を上げ、もう一度、鈴を揺らそうとした所で誰かに腕を掴まれ、覗き込んだ顔に、思考回路が停止した。
右の目を隠した長い黒髪、その頭には黒い毛並みに覆われた尖った耳、他の誰でもない想い人の姿に声がひっくり返る。
「ひ! 日月?! ど、どうして?!」
「どうして? 奇しことを申すなその音が聞こえたから来たまで……」
僕が持っている鈴を、日月の尖った長い爪が揺らす。
音のない鈴が揺れ、照れているのか、顔を背けた日月に、僕の心は満たされていく。
本当に来てくれたんだ……
べ、別に信じてないわけじゃないけど!ほっほら狐だし……妖狐だし? 人を化かすって謂れもあるわけだし!
ありがとう。その一言を伝えたくて、日月の名前を呼ぶ前に、何かを感じた日月が、ゆっくりと立ち上がり、僕を見下ろす日月の赤い目は、険しい目つきになっていた。
「童」
「童じゃない!僕は!」
「名を申すな、邪気に喰われるぞ」
急に僕を子供扱いをしてきた日月に、反論するために名前を言おうとした僕の声は、「邪気に喰われる」と言った日月の重く低い声に、口を閉ざす。
突然、どこからともなく現れた黒い煙は、渦を巻き、大きな塊を作り出し、その塊から悲痛な叫びと呻くような泣き声が耳の中で響いた。
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