日月と契約?!

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日月と契約?!

 近づいてきた日月は。すっぽり覆っていた着物を僕から乱暴に奪い取り、肩にかけると胡座をかいてワザとらしいため息を吐く。  多分じゃなくって……これは……絶対機嫌が悪くなってるやつだと思う。 「童、邪気の集まりだったのだぞ?少しも怖くはなかったのか?」 「怖くなかったよ? その着物が守ってくれたみたいで」  流石に日月から『喰われる』って言われた時は、正直怖かったけど、頭に被せられた着物と日月が側にいるってだけで、怖さなんて吹っ飛んでたし、八尾に変わる日月が、幻想的で、凄く綺麗で、それでいてヒーローみたいにかっこよかったんだよな。 「この着物が? ……そうか……童、名をなんと申す?」 「え? 辰に徳でたつのり。天野辰徳」  指で字を書き、わかりやすく伝え、いい名前でしょ?とニッコリ笑うと、日月からの鉄槌が頭に直撃しただけでなく、右頬を日月の指が挟む。 「このうつけが! あれ程名を名乗るなと」 「ひふきが聞いたんじゃん!」  しばらく睨み合い、気が済んだ日月の指が離れ、頬を撫でる僕に、今度は、手を出せと言ってきたので、ブツブツと文句を言いながらも、両手を差し、その手に日月の手が、優しく重なり、何が始まるのかと、期待を含ませた目で、日月を見た。  吸い込まれる程、深い赤色をした日月の瞳に、心臓がドキドキしてくる。 「この件でお前に邪気が近づいてくるやもしれん……なれば鈴では事足りぬ故」  日月の言葉は至って真剣で、その真剣さからただ事ではない……今日みたいな出来事が日常茶飯になるってことが、僕の頭でも理解できる。  多分、それは命に関わるような危険なことで、僕は唇を噛みしめ、ゆっくりと頷くと日月の言葉を待つ。 「辰徳、其方と契約を交わそう」  日月の言った「契約」の意味はよく分からないけど、多分、日月と僕が友達になれるって事の解釈でいいのかな?それなら……  僕は考えるまでもなく、大きく頷き、重なり合う両手に視線をやるが、日月から大きなため息が聞こえ、顔を上げた僕の目に、肩を落とし頭をかく日月の姿が映る。 「さればこそ……ここまでか……」 「日月……もしかして……さっきのアレで力がなくなったとか? だったら神無し神社に戻ろよ!」 「……そうするしかあるまい」  そう言った日月は、僕を見て笑ったような気がしたけど、その笑顔は、僕に向けたものではない感じがして、何故か胸のあたりが、チクチクと痛みだした。 「良いか? 声を出すではないぞ?」 「うん」  日月は、抱き寄せた僕を隠すように、羽織ってある着物の中に入れ、空中に鳥居と門を書きながら、さっきみたいな呪文を唱える。 『狐の杜に通ずる鳥居千本』  日月の言葉に、晴れていた空はさっきと同じようなどんよりとした雲に覆われ、どこともなく現れた大きな鳥居に、生唾を飲み込む。  少し浮いた身体と周りに響く童謡に、びっくりして、日月にしがみついた僕は、ギュッと目を閉じ、怖さから逃れようと日月の優しい声に耳を傾けた。 『我が魂、還るは稲の杜、薫るは銀木犀』  恐る恐る片目を薄く開け、見えてきたのは、石畳みの通路、その脇には、すすきと等間隔に置かれた灯籠が、赤い炎に灯され、石畳の通路を照らす。 『主、日月が命ずる……開門』  日月の落ち着いた言葉と共に、朱に染まった鳥居が、近くまで迫ってきたのと同時に、身体ごと飛ばされそうな突風が吹き、目を開けた時には、神無し神社の拝殿前にいた。
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