日月との契約に知らない誰か

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日月との契約に知らない誰か

 呆気にとられてる僕の手を引き、拝殿の奥に進むといつもの場所、襖の前に座り、ダルそうにもたれる日月の姿が心配になる。 「日月?大丈夫?」  熱を出した僕に、お母さんが大丈夫と言いながら頭を撫でてくれたのを思い出し、日月にも!と手を出してみたが、見えない壁があるのか、日月の頭に手が届かない。  近くに居るはずなのに、日月に触れることができなかった手を戻し、その手をまじまじと見たけど、いつも見ている手で感触もある。  考えたところで答えが出ることもなく、ま、いっかと、襖にもたれ、大きく深呼吸をした日月をみていると、何処からともなく優しい笛の音色が聞こえ、その笛の音色からなのか、襖にもたれる日月の身体を青白い光が包む。  その光景は、ゲームや映画でよく見る回復魔法みたいな感じで、日月の姿が白の着物に銀色の髪、揺れている八又の尻尾……、  日月は八尾の狐に戻っていた。 ✱✱✱  どれぐらい時間が立ったのかわからないけど、苦しげに顔を歪ませていた日月の表情は、落ち着きを取り戻し、ゆっくりと開いた目に、ホッと胸を撫で下ろす。 「辰徳、此れへ参れ……時雨、もうよい」  時雨?他に誰か居るの?  上下左右、頭を動かして見てみるが、部屋には僕と日月しかいない。  わけがわからないと疑問を浮かべながらも、早うと手招きをする日月の元へと近づく。 「日月、大丈夫?」 「嗚呼、辰徳は大事ないか?」  日月の白い手が、僕の右手を握り、身体を起こした日月が、空いた手で、頷く僕の頭を撫でた。  僕を見る目に、顔がこれでもかってぐらい赤くなるし、全速力で走った後のように心臓が脈打っていて苦しい。 「け! 契約! 交わすんだろ?」 「そう急かすでないわ……俺と契約を交わしたことは他言無用だ……よいな?」  八尾の狐と契約したと言ったところで、誰も羨ましがる奴もいないし、そんな友達もいないから、その心配はないとして……  それよりも……アルテミットレアな妖怪、八尾の狐と契約できるだなんて! 僕はなんて! なんて! ついてるんだ!  どうしよう……考えただけで顔が……口元がニヤついてしまう! 「辰徳? 聞いているか?」 「大丈夫! で! どうすればいい? 服とか脱ぐ? 刻印とか入れる?」 「……そのままで……問題はない」  僕の心を読んだのかな?日月がドン引きしてるように見えるんだけど……興奮するものもわかってほしいよなー……レア度の高い妖怪とじいちゃんのじいちゃんが友達ってだけでも興奮するのに、僕とは契約なんだもんな!  なんか、なんか、じいちゃんのじいちゃんに勝ったような気がして、僕のテンションは上がりっぱなしだ。  胡座をかいた日月に同じ事をしろと言われ、僕も胡座をかいて目を閉じ、頭を空っぽにして日月の言葉に集中した。    流れていた笛の音色が変わり、眩しいくらい白い光が、僕と日月を誰にも見えないように囲む。 『天の野原に翔ける辰は徳を成し』  日月の声は、普段とは違って女の人のような優しい中性的な声が耳に心地良かったのだが、体の奥からじんわりと熱が全体に広がり、何かが入ってくるような感じに、なんか怖くて思わず叫びそうになるが、笛の音に助けられる。 『照らす日の月、之を守護する』  頭に浮かんだ太陽と月が合わさった絵は、現れた小さな壺に向かって溶けていき、最後の一滴が流れ終わると、カタカタと音を立てて壺の蓋が閉まった。   「辰徳、もう良いぞ、目を開けよ」  日月の言葉に、ゆっくりと目を開けたのだが、元の姿に戻っている日月の隣には、日月と同じ黒髪に、黒い着物を着た見知らぬ人が立っていた。  だ、だれ?  
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