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 日曜日、金沢に帰る日。友達が車で東京駅まで送ってくれることになった。助手席でまた会う約束をしたりしながら、下村さんの話題になった。 「あいつ、変なところはあるけどいい奴だったろう?」 「うん、本当に素敵な人だった」 「素敵ぃ? お前、変な評価するんだな」  私は、今こそ言うべき時が来たと思った。一夜経っても私の想いは変わっていない。スマホの待ち受けは既にコミケの時に撮った下村さんになっている。湯婆婆のぬいぐるみを小脇に抱えてピースをする下村さんの画像を見ながら、私は呼吸を整えて、「下村さんに、結婚を前提にお付き合いをさせてもらおうと、告白するつもりだ」と友達に言った。友達はフロントガラスの向こうを見ながら「冗談だろう?」と言って笑った。私は返事をしなかった。真剣な話だから茶化して欲しくはなかったのだ。車内に静寂が降りてきた。カーラジオから聞こえる東京FMの軽快なトークが一層静寂を際立たせている。 「これは、念のために言うんだけどさ」と、友達はようやく口を開いて私に言った。 「あいつ男だけど、それでいいのか?」 「え?」  変な声が口から漏れ出て、絶句した。もしこのとき友達が大爆笑でもしてくれたのなら笑い話になったのだが、私があまりに真面目なオーラを出したからか、友達も神妙な顔で黙っていた。東京駅の前に着いて私は車から降りた。手を振って車を見送る。最後まで私たちは無口で無表情のままだった。  仰ぎ見れば金沢ではめったに拝めない快晴の空が広がっていた。大通りがまっすぐに皇居まで伸びていてはるか向こうに青々とした木々が見える。吹き抜ける風が慰めるように私の頬を撫でていく。あらゆる人たちを受け入れている東京という地は惨めな私にすらも寛容だ。いつかまた来ようと胸に近い、私はレンガ造りの建物へ歩きだした。  本当は全力で走りたい気分だった。
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