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心臓摘出 マテオの語り
きっかり一〇分してヘリが屋上に到着、直ちに処置室へ収容された。
若い男と女だ。イタリア人ではない。
心臓が止まっている男の蘇生が直ちに始まった。
慣れた看護師がこともなげに気管内挿管、呼吸開始と同時に心臓マッサージ。ほんの二分の離れ業だ。
さすがに彼女たちの腕は日頃鍛えているだけはある。目立った外傷はないので蘇生は成功するだろうが、果たして脳がこの時間でもつだろうか。
一方の女は厄介だ。胸が大きくえぐられている。かろうじて心臓は動いているが出血がとても多い。
すぐに交差試験が行われB型、輸血開始をした。
問題は傷の程度がわからないことでここは俺の出番だ。手術台へ乗せて胸を調べる。
傷口から中を見ると、ダメだ、心臓が一部えぐられている。
幸いにえぐられた部分はわずかでそこを縫えればなんとか止血はできそうだが、問題は傷が完全に汚染されてしまっていることだ。海の泥や細かい砂が無数入り込んでいる。
これでは使い物にならない。汚染物質が全身に送られてしまう。残念だが女の心臓は諦めるしかない。
静かに俺は言った。
「女性の方は心臓が完全に汚染されているので摘出します。まず人工心肺を装着します。同時に移植センターへB型心臓のドナーを探す依頼をしてください」
麻酔科医のレナが言う。
「血圧がない。急げ」
「了解」
血圧がない患者の手術は血が出ないから簡単だ。人工心肺の装着には三分で充分、三分後には循環が再開できた。
これなら脳は守られる。問題は汚染物質をしっかり取り除くこと。いつもよりは大きく広範囲に心臓を摘出した。およそ汚い。海の中のドロドロのヘドロがへばりついている。果たして全身感染が起きなければいいが、これは祈るしかない。
一時間後には女の容体は安定するだろう。人工心肺はしっかり機能している。顔にもしっかり赤みが差してきており、呼びかけに対して目も開けた。
ようし、女の方はあとはドナーの心臓が見つかるか否かだ。幸運を願うしかない。
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