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私が初めて「月」に来たとき、アルは既にこの場所にいた。どうして私がこの場所に存在しているのか、ここで何をすればいいのか分からず路頭に迷っている時に、初めてアルに出会った。
彼は機械人形によって無限に積み上げられる紙の上にひたすら文字を記していた。私が彼に何をやっているのかと尋ねると、彼は物語を作っている、と答えた。自由にペンを動かしている彼の姿は、何も持たない私にとって、とても輝いて見えた。彼の想像から生み出される文字たちは、私を様々な世界に連れて行ってくれた。
私も彼の影響を受けて、彼と一緒に文字を記すようになった。山積みの本を読んでは、文字を記し、本を読む。そのことの繰り返し。だけど、そんな日々が心地よかった。物語を作ること、それがこの場所での私の存在理由になった。私はアルにそれを教えてもらった。そんな日々が永遠に続くように思えた。
しかし、ある日、彼は「星」になりたいと言い出した。「星」になって僕たちと同じような星々に「月」で作った物語がどう思われるか知りたい、と言い出した。
私は彼をここに留めたかったが、彼の考えを尊重して反対しなかった。そして、私はアルを見送り、この場所に残り続けた。以前の私のように「月」にやってくる人がいるかもしれない。もし、誰かが来たときに、アルが私にしてくれたように、私がその人の希望になれるかもしれない。そう思い、ここに残り続けた。
それから、長い時間が過ぎていった。私はその間も物語を記し続けたが、結局、誰も来ることはなかった。
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