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いっしょに過ごした2年間を経て、美香はもうすぐ拓也の妻になる。
ボーイッシュでサバサバした美香と優しくて物静かな性質の拓也は相性がいいようで、とくに大きなケンカもなく順調にここまで来た。両家へのあいさつ、結納、その他もろもろの決まり事も滞りなく済ませ、いよいよ結婚式へのカウントダウンがはじまった。
拓也自身は三男坊で普通のサラリーマンなのだが、実家は父親が医療機器の会社を経営しており裕福で、職業柄、医師や大学教授といった病院関係の人々と付き合いがあるため、結婚式も格式の高いホテルでの豪華なものを要求された。
対して美香の方は4歳で母親を病気で亡くしており、以後シングルファーザーとなった会社員の父と父方の祖母に育てられた。幼かった美香に母親の記憶はほとんどなく、写真を指差し「この人がお母さんだよ」と言われても今ひとつピンと来ない。そこにはウェーブのかかったロングヘアーでしっかりめのお化粧をし、フェミニンな印象の淡い水色のワンピースを着て微笑む美人さんがいた。そんな「お母さん」に、日に焼け化粧っ気のないショートヘアでパンツスタイルを好む自分との共通点が見いだせないという事も大きかった。
*
「あ〜結婚式かあ。ねえ、どうしてもドレス着なきゃダメ?」
「だって、ドレスじゃないならどうするの?」
「あたしもタキシードにしちゃうとか!?」
「……いや、それは無理」
「……だよねー……」
「美香の主義に反するってことはよく分かるし、僕だって、美香がタキシードだろうがモンペだろうが構わないよ。でもさ、悪いとは思うんだけど、一日だけ我慢して欲しいんだ。結婚したら美香の好きなオムライスたくさん作ってあげるから、ね」
「あ、それ絶対だよ! 拓也の料理はお店レベルだもんなあ。カレーもハンバーグも作ってね!」
「了解です、がんばりますっ!」
若い恋人たちは言いながら笑いあった。もっとも美香の方は「屈託なく」とはいかなかったが。
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