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子どもの頃から美香は着飾ることが好きではなかった。
七五三の時などは、女子の装いに疎い男親しかいない美香を不憫に思った祖母が、他の子に見劣りしないようにと立派な晴れ着やドレスを用意してくれた。子どもなりに気を遣い、うれしそうに見守る祖母の前ではニッコリ笑顔の美香だったが、本当はズボンの方がよかった。それでも小学校に行く時は祖母も「動きやすくて丈夫な服がいい」という考えだったので、美香の好きな「男の子みたいな」格好でよいのでラクだった。
最悪だったのは中高生の時だ。これまた(家庭内での絶対的権力者である)祖母の意向で中学から私立の女子校に進んだ美香は、「制服」しかも今どき珍しい「セーラー服」だったため、イヤでも毎日少女らしい服装を強いられたのである。
それでも男の子みたいな性格と雰囲気の美香は校内でアイドル的存在となり、女子校によくある「王子様」ポジションで乗り切った。ファンの女の子とキスのマネごとなんかもあったが、どうもそういう嗜好ではないらしく、男子校の子と女子として普通に付き合ったりもした。
大学もそのままエスカレーター式に女子大へという考えだった祖母を説得し、もともと好きだった美術の道を目指すべく美大受験を決めた。しぶる祖母だったが、父親が「美香のしたいことをすればいい」と後押ししてくれたおかげもあり、美大に進むことができた。拓也とは卒業後、就職先であるデザイン会社で出会う。お互い芸術家気質ということもあり気が合う二人は、いくつかの季節を過ごし感情を交換しあい、より深い関係を築いていった。
*
「美香ちゃんもお嫁さんになるんだねえ」
涙ぐむ祖母。
「もー、おばあちゃん、式は明日なんだからさ、今から泣いてちゃダメじゃん」
「うん、うん、そうだねえ。美香ちゃんも早うお風呂入って、明日に備えてもう寝なくちゃねえ」
あたしは26歳でもう結婚するような歳なのにいつまでも子ども扱いして。いつもの美香だったら言い返すところだが、おばあちゃんにこんな風に世話を焼いてもらえるのも今日で最後かと思うと美香自身ウルっと来てしまいそう。
対して父親はいつも通り、こちらの会話を聞いているのかいないのか、黙ったままテレビ画面を見つめている。
そもそも多忙で帰りの遅い父とはあまり顔を合わすこともなく、美香はもっぱら祖母としか会話して来なかった。思春期を迎える小学校高学年以降はなおのこと、父親との接し方がよくわからず向こうから積極的に関わってくることもないまま大人になってしまった。
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