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言われてよく見れば、そこには確かに母、もとい濃いめのお化粧とウェーブのかかったロングヘアーの付け毛ですっかり変身した自分自身が、不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。なんという事だろう、自分はこんなにも母に似ていたのか……。もしかしたら、私はいままでずっと、母との相似性を否定することで母を思い出さないよう考えないようにし、埋めようのない寂しさを無意識のうちに押し込め誤魔化してきたのかもしれない。そんな考えに思い至るとこみ上げるものがあり、思わず涙が頬を伝った。メイクさんがあわててティッシュで押さえる。
「ええ、本当におきれいですよ。さあ、ドレスを着て仕上げをしましょうね」
*
入場前に顔を合わせた父は、ぎょっとした様子でポカンとなった、と思ったらふいに声を上げて泣き出してしまった。
「う、う、ううう~……」
「お、お父さん、ちょっと泣かないで、私も泣けてくるよ」
「だ、だってお前、美穂に…母さんに…あ、あんまりそっくりで……」
普段はほとんど口を開くこともなく感情を表さない父の、意外な反応に美香もおどろき戸惑った。お父さんもまた、お母さんのことなるべく考えないよう、心の奥底に感情を閉じ込めてきたのかもしれない。いまなら美香にも想像がつく、生涯を誓ったパートナーを失う悲しみと喪失感が、どれほど大きなものであるのかを。
結局ヴァージンロードを新婦と新婦の父が号泣しながら歩くという事態になった。拓也はといえば、牧師の前で美香と顔を合わせたとたんあっけにとられぼうっとなり、頬を上気させながら
「美香…きれいだ……」
と、誓いの言葉にはないセリフを思わずつぶやき友人たちに冷やかされるはめになった。
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