『春への扉』

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 20年前、玄関口で向かい合って別れを告げた男の子を思い出す。 向かい合わせの家に住む幼馴染だったその男の子は、家庭の事情により、小学2年生の時に遠く離れた町に引っ越して行った。 「春人くん!!」 走り去る車を追いかける。後部座席で、小さな頭が振り返る。窓越しに確かに目が合った。 「わたしねーーー」 次の言葉を言おうとした時には、車はもうずっと遠くで、見えなくなってしまっていた。  小学校を卒業し、中学生,高校生と成長していく中で、強く想っていたわけではないが、いつも心の片隅にその幼い日々の記憶が残っていた。 ーまた逢えたなら、その時は、と。  大学を卒業し、小さな一軒家で一人暮らしを始めてから6年の月日が経ったとある日曜日。 「ピンポーン」と、玄関のチャイムが鳴った。つられるように返事を遣って、玄関に急ぐ。 ドアを開けると、目映い春の陽射しが差し込んで来た。その金色の光の風の中に、懐かしい面影が芽生える。 「ただいま、日菜。」 あの頃とは違う、背丈もぐんと伸びた彼がそこにいた。 あの頃とは違う、声もずっと大人になって。 だけど確かに、温もりはあの頃のままで。 「おかえりなさい。」 あの頃の記憶が、未来が、私を待っていた。
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