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三上智樹は、疲れた体を引きずるようにして帰路についていた。
刑事の仕事は激務だ。夢に描いていた颯爽とした姿とはほど遠く、草臥れた顔を鏡に映してため息をつく日々が続く。
ようやく、一人暮らしのマンションにたどり着いた。
鍵を開け中に入り、灯りをつけ……いや、すでについている。
あれ? 出るとき消し忘れたかな?
首をかしげた途端に、ドタドタと足音が聞こえてきた。
「おかえりっ! 智樹っ」
突然現れた女の子が、元気な声をあげる。和装でおかっぱ。歳は5歳くらいか? 艶やかな黒髪と白い顔。どこか日本人形を思わせた。
「のわぁぁぁっ!」
慌てて外へ飛び出そうとする智樹。
そのスーツの裾を女の子が掴み引っ張る。
「なんで出てくのよぅ? 待ってたのにぃ」
智樹は引っ張られるままその場に尻餅をついた。
「え? 俺を待ってた?」
「さ、入って入って」
いや、俺の部屋だし……。
「君は、誰? どこの子だい?」
立ち上がりながら智樹が訊いた。
女の子は「えっ!?」っと言って目と口を大きく開けたまま止まる。
「ひどい……。私のこと、忘れちゃったの?」
ワナワナと全身を震わせながら、泣き始める女の子。
「え? いや、その……」
あまりにも悲しそうな様子に、智樹の胸が痛む。
困惑しているうちに、めまぐるしく過去の記憶を呼び起こしては消していく。そしてついに、あることを思い出しハッとなった。
「まさか、もしかして、ちび花?」
恐る恐る訊く智樹。
ピタリ、と女の子が泣きやみ、動きも止まった。満面の笑みを浮かべる。
「思い出した? でも、ちびは余計だなぁ。心花だよっ!」
「そんなバカな……!」
自分で言い当てておきながら、智樹は驚きでまたしてもその場に腰を落とした。
だって、心花は人形じゃないか……。
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