心花

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 「はい。どうぞ」  目の前のテーブルに湯飲みが置かれた。熱い緑茶が注がれている。  フウフウと冷ましながら、一口飲む智樹。目は心花に向けたままだ。  「いや~ん、夫婦だからって、そんなに見られたら照れちゃう」  心花が体を捩りながら言った。  ちょ、ちょっと待てよ。落ち着こう。これは夢だ。夢に違いない……。  頭を振り考える智樹。  「久しぶりね、智樹。昔のままで良かった」  「いや、そんなはずはないよ。何年経っていると……」  まじめに応えようとして、智樹は止まる。そう、夢だ。夢なんだ。  「ええ? でも……」心花が目を細めながら見つめてきた。「ああ、ほんとだ。こうやって見るとおじさんになってる」  「おじさんじゃないっ! まだ30だよ」  まじめに言い返してから、ああ、夢なんだからいいか、と思い直す。  「うん、でも違う気持ちで見れば、前の智樹だ。だって、見ようと思えば何歳の智樹でも見られるし。だから、今も5才の智樹のままだよ。なんなら、もっと年上の智樹にだってできるよ。80歳の智樹、見てみようか?」  「いや、そんなに生きないかもしれないし……」  こちらが言い終わらぬうちに心花が「ぎゃぁぁぁっ!」と叫ぶ。  「どうした?」  「智樹が白骨になった」  「死んでるじゃん……」  「なーんて、嘘だよ~ん」  戯けて笑う心花。がっくりと項垂れる智樹。
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