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25年前、智樹は一回死んだ。
小さいが観光に訪れる人は多く、活気はそれなりにある街に住んでいた。
夏の日だった。行楽に良い季候で、多くの客が訪れた。
その中に、逃亡中の殺人犯が紛れ込んでいた――。
暴力団の抗争の最中のことらしい。対抗組織の幹部を殺害した男が逃げてきていた。追っ手もやってきて、河原で銃撃戦になった。
子供達やその親も遊びに来ていた中での騒動だった。人々は逃げ惑った。
逃亡犯はやけくそになり、目に映る者すべて、敵だろうが警官だろうが――女子供であっても、所持していた散弾銃を向けた。
逃げ遅れた智樹が男の標的になった。そのとき、一人の警官が駆けより、智樹を抱きかかえて逃げようとした。
激しい銃声が響き、何発もの弾丸が警官の身体を貫いた。そのうち数発が智樹の身体にも撃ち込まれた。
何とか逃亡犯も追っ手の暴力団員達も制圧されたが、多くのけが人が出た。
そして、死者2名――。
一人は智樹。もう一人は彼を救おうとしてくれた老警察官、藤岡茂巡査部長だった。
病院に担ぎ込まれた智樹は、その時すでに心肺停止状態。嘆き悲しんだ両親にかわり、親戚のおばさんが人形を用意してくれた。人形婚の相手、それが、心花だ。
臨死体験、とでも言うのだろうか。智樹は死の間際に夢を見ていた。
「君は誰?」
「心花」
「僕よりちっちゃいね。ちび花だね」
「失礼ね。あなたのお嫁さんなのに」
「え? お嫁さん? まだ子供だよ、僕たち」
「ここでは、細かいことは気にしないの。さあ、一緒に遊ぼう」
「うーん、なんだかわからないけど、まあいいや」
夢の中では時間は無限のように感じられた。智樹と心花は、たくさん遊んだ。雲の上の上の上の、更に上の世界で……。
それはそれは、楽しい時だった。
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