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しかし、突然目の前に、制服を着た警察官のおじさんが立ちふさがって言った。
「君はまだ、死んじゃいけない。帰りなさい」
えっ? と驚く智樹。
心花はおじさんの言うことを理解したようで「それができるなら、その方がいいね」と寂しそうに言った。
次の瞬間、世界がぐらりと揺れた。目の前が真っ暗になった。ぐるぐる回って、智樹は大きな波に呑まれた。
途中、遠くから心花の声が聞こえてきた。
「またね。私、会いに行くからね……」
病院のベッドで目を覚ました智樹を、まわりの人たちは驚きの目で見つめた。
当然だろうと思う。死んだ人間が蘇ったのだから。
撃たれた時、警察官のおじさんに抱きかかえられた。その体が、弾丸の威力を弱めてくれた。だから、智樹の命の火を最後まで消しきることはできなかったのだ。
智樹が寝ているベッドの脇には棚があり、そこに人形が飾られていた。心花だ。
ああ、この子だったんだ……。
智樹が見つめていると、母が心花を抱き上げた。
「この子も、無駄になっちゃったね。どこかで供養してあげた方が良いのかしら?」
即座に首を振る智樹。
「家に飾っておこうよ」
「そう? まあ、本当のお嫁さんが来るまで、相手をしてもらえばいいね」
母もそう言って頷いた。
とはいえ、快復して元気になると、智樹は人形の存在を徐々に忘れていき、いつの間にかどこかに紛れてしまっていたのだが……。
退院してしばらく後、両親に連れられて、助けてくれた藤岡茂さんの家へ挨拶に行った。遺影を見て驚いた。臨死体験中に見た夢に出てきた警察官とそっくりだったからだ。
藤岡さんは、立派な警察官だったという。
いつしか智樹は、自分も警察官になると決意していた。藤岡さんのようになるんだ、と思ったのだ。
すべて思い出すと、もう一度心花のことをマジマジと見る。
「いや~ん、そんなに見つめないで」
恥じらうように両手で顔を隠す心花だが、指の間から嬉しそうな目でこちらを見ている。
困ったような、ちょっと嬉しいような、複雑な気持ちで智樹はため息をついた。
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