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朝日がビルの隙間から顔を出す。ビックカメラの銀色の三角形の建物に反射して、目が眩んだ。
泥水のような、濁った水が流れる川ですら朝日に輝いている。
恋が叶わなかった人魚姫は泡になるんだっけ。今この川に飛び込めば、私も泡になれるだろうか。
なれるわけがないか、と橋の欄干にもたれかかった。
ようちゃんはどこに行ったのだろう。私の稼いだお金を持って、これから生きていけるのだろうか。あの人は、きっと私よりずっと弱い人だ。
水面を見ながら、実家の家族に思いを馳せる。最初のうちはひっきりなしに電話がかかってきていたが、今では何の連絡もない。
私がいなくても回る世界。空っぽの私。信じた人には何もかも奪われて、残ったものは小銭と少しの荷物、抱いていた幻想と絶望。
でもなぜだか、少しスッキリしていた。
ようちゃんと、窮屈な思いをしながら過ごさなくて良くなったからかもしれない。私を見下す父や母や兄もいない。何も持たない私だけがここにいる。
道行く人々をぼんやりと見つめた。きっとこの中の誰よりも、私が一番絶望の中にいて、一番自由だ。
よく磨かれた革靴やローファーが目の前を通り過ぎていく。ふと、ようちゃんの履いていた、ぼろぼろのコンバースを思い出した。
私も自分の靴を見る。実家から履いてきた、ようちゃんと同じデザインの履き古した赤いコンバース。
一度唇を噛み締めて、口角を上げた。
そのまま靴を脱ぎ、思い切り川に投げ捨てる。
朝日に照らされた水面に、赤い靴が浮かぶ。
ゆらゆらと頼りなく、それでいて沈むことのない靴を、その姿が消えるまで見つめ続けた。
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