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これは夢だ、とすぐにわかった。
ようちゃんがいた。古くて狭いアパートで、私達は暮らしていた。
シングルの布団に身を寄せ合って眠り、ご飯は適当に惣菜を買ってくる。洗濯物は部屋の隅に溜まり、カーテンレールに部屋干しのTシャツが何枚もかかっている。
浴槽とトイレと洗面が一緒くたになっている狭いお風呂に2人で入って、お湯をかけあって笑う。トイレの床までびしょびしょになって、どうすんのこれ、と2人してため息をついて笑い合った。
こんな幸せな風景が私を待っているのだと、信じて疑わなかった。
なのに、どうして。
現実は、あの夢のアパートよりもずっと狭い個室で、震えながら夜を過ごしている。シャワーしかなく洗濯もなかなかできず、毎日同じ服を着回して。
ようちゃんはよくお金を要求した。交通費とか、タバコ代とか、食事代とか。そして、たまに不自然に多い額が返ってくることがあった。
「今日の仕事は賃金が高かったから」
そう言っていたけれど、今ならわかる。彼はスロットを打ちに行っていたのだろう。
勝った日は私にお金を返すが、負けた日は決してお金を返さない。
そういう人間だと気づいていたのに、どうして私はまだこんなところにいるのだろう。
夢と現実との差に、涙が頬を伝った。
誰かに肩を揺さぶられる。
「お客様、お客様……閉店です、起きてください」
ようちゃんかと思いきや、目の前にはパチンコ屋の制服を着た店員が立っていた。
すみません、と頭を下げて立ち上がる。
ようちゃんはどこに行ったのだろう。先程彼が打っていた台の方へ向かった。
だが、そこには誰もいなかった。
店内もぐるりと回って見るが、やはりどこにもいない。
トイレかもしれない、と店の外で待つことにした。
5分経っても、10分経ってもようちゃんは出てこない。
まさか、先に帰った?
スマホを見るが、何も通知は来ていない。
嫌な予感が頭をよぎる。
私は走って、いつもの漫画喫茶へと向かった。
震える手で個室の鍵を開ける。上手く鍵穴に鍵が入らない。しっかりしろ、と両手で鍵を握りしめ、意を決して扉を開けた。
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